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商業イラスト界に新たな風/イラストレーター・世戸ヒロアキさんに聞く【インタビュー】

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西山 健太郎
2018/03/28
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――それでは、ちょっと話題をかえて、世戸さんがイラストを描くのが好きになったきっかけについて教えていただけますか?

世戸 実は小さい頃、親からゲームを買ってもらえなかったのが、イラストにハマったきっかけだと思います。他の友だちは「64」とか「ゲームボーイ」とかを持っていて、子供ながらに「仲間外れにされたら大変」という危機感を覚えまして、ポケモンやドラゴンボールの絵を描いてみんなに見せて話題作りをしていました(笑)。
そうしたなか、ティム・バートン監督の「バットマン」やサム・ライミ監督の「スパイダーマン」といった映画作品に出会い、その原作であるアメリカン・コミックの魅力を知ることになります。さらに、実家で加入していたケーブルテレビのプログラムの中に「カートゥーンネットワーク」というアニメ専門チャンネルを見つけ、そこで流れる番組を毎日食い入るように見ていましたね。「原始家族フリントストーン」とか「アニメ版のバットマン」、「デクスターズラボ」とか。

 

――そういった番組のシーンをイラストとして描いていたのですね。

世戸 登場人物の「部分」に注目して、それだけを描いていました。アニメを見ながら、ある日は顔だけ、ある日は手だけ、という風に。そうすることで、体全体を描くときに、いろいろなポーズがイメージ通りに描けるようになっていきました。まだ小学生でしたから、クオリティは全然でしたが(笑)。
アニメの登場人物だけでなく「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」とか「レゴブロック」とかのおもちゃでも、同じ「部分」を何度も見る角度を変えて描いていた記憶があります。

 

――すごい少年ですね (笑)。まさにそのあたりに「イラストレーター・世戸ヒロアキ」のルーツがありそうです。それでは続いて、現在のフリーイラストレーターとしての活動についてお伺いしたいと思います。単刀直入にお尋ねしますが、お仕事の依頼というのは、どのような形で入ってくるものなのですか?

世戸 私は大阪に本社を置くアーティストやイラストレーターのマネージメントやコーディネートをする会社に所属していて、大手企業からの依頼はその会社を経由してのものが多いですね。ただ、私個人のホームページやインスタグラムを見たという方から直接メールで依頼をいただくこともありますし、一度お仕事をさせていただいたクライアント(依頼主)から別のクライアントを紹介されるケースも少なくありません。

 

――マネージメント会社やマネージャーを介さずに、直で仕事の依頼を受ける場合、ギャラ(報酬)や納期の交渉など面倒なことになりませんか?

世戸 そういった点では、広告代理店に勤めていたことがかなり役に立っています。イラストレーターに仕事を依頼する際のギャラの相場や仕事の流れを知っていますから、クライアントと揉めることはほとんどないですね。

 

――仕事の流れとはどういうことですか?

世戸 分かりやすく言うと、広告デザインの仕事に関わるのは、クライアント(依頼者)、ディレクター(企画者)、デザイナー、イラストレーターの四者です。まず、クライアントから依頼を受けたディレクターが、デザイナーにデザインを依頼します。例えばここにあるような「コーヒーの解説書」のようなものを作る場合を想定すると、デザイナーは、表紙をどうするか、本編の構成やレイアウトをどうするかを決めるわけです。そしてその表紙や本文を補完するものとしてイラストレーターに挿絵のカットを依頼します。イラストではなく写真の方が適していると判断した場合はイラストレーターではなくフォトグラファーにそのカットを依頼するのです。

 

――なるほど、会社員時代の経験がフリーイラストレーターとしての活動に多分に貢献しているという、素晴らしいキャリアの積み方ですよね。

世戸 おっしゃるとおりで、会社員時代があってこそ今の自分があると思っています。必ずしも最短コースでイラストレーターになったわけではなく、回り道をしてきたことが、かえって現在の仕事の幅を広げることにつながっている、という。そんな感じがしますね。

 

――昨年12月には、けやき通りのアートイベント「ギャラリー梯子酒」の開催に合わせて、その会場の一つである「OTOGI」で個展を開催されましたね。

世戸 「OTOGI」の川崎オーナーから個展のオファーをいただきまして、フリーになって初めての個展だったのですが、業界ではなく一般のお客さんに自分の作品がどう見ていただけるのかも興味があり、20点ほど作品を展示しました。

 

――その反応はいかがでしたか?

世戸 私が予想していたよりもはるかに多くのお客さんにご来場いただき、しかもその場で作品がどんどん売れていったので、嬉しさと驚きでかなりの興奮状態でした。
特に印象深かったのが、昨年、会社を退職する前に有給休暇の消化も兼ねて訪れたニューヨークのブルックリン橋を描いた作品をカナダ人のお客さんが買ってくれ、その方が「ちょうどこの場所に立ってブルックリン橋を眺めた時のことを思い出した」とお話されたんですね。その偶然の一致にとても感動しました。

「ギャラリー梯子酒」に合わせて開催した個展で発表した作品
タイトル:Friday Beer Pool

――「時空を超えた共感」、まさにそれこそがアートの醍醐味ですね。「夜」とか「海」とかを言葉や文章で説明するとなると相当な時間や文字数が必要だと思いますが、絵画だと一瞬で理解を共有できるのと一緒だと思います。
それでは、世戸さんが作品を制作される際に、一番大事にしていることを教えていただけますか?

世戸 「わかりやすさ」と「親しみやすさ」。その二つに尽きます。
私はイラストレーターなので、挿絵ならその記事の内容を、商業施設やイベント・キャンペーンを紹介するためのイラストならその楽しさや魅力を伝えるのが自分の役割だと思っています。
そういう視点から私の仕事を評価していただけたときは、本当にイラストレーター冥利に尽きるといいますか、最高の充実感と満足感を得られますね。

 

――個人的な感想ですが、世戸さんの作品を拝見すると、線の面白さを感じます。これ以上、線が細かったらシャープなイメージが強くなるし、これ以上太かったらほのぼのしたイメージが強くなる。絶妙な線の太さが、世戸さんがおっしゃる「わかりやすさ」と「親しみやすさ」、さらにはスタイリッシュな印象を与えていると思います。

世戸 そんなことをおっしゃっていただいたのは初めてですが、面白いご意見ですね。私自身は、あまり線を意識したことはないのですが、日頃からお仕事以外でオリジナルの作品を描いていることが役に立っていると思います。オリジナルの作品をたくさん描くことで、少しタッチを変えたり線を変えてみたりと、もっと良い表現ができないか試行錯誤しています。また、色づかいにはかなり気を遣います。最近は色をたくさん使ったイラストも描きますが、普段はシンプルかつスタイリッシュに見えるように、使用する色は3~4色程度に抑えて描くことが多いです。

作品はほとんどパソコンで制作していて、下図、赤色、青色、黄色という感じでレイヤーごとに描いていきます。

 

――制作過程だけ伺うと「浮世絵」と同じ手法ですね。

世戸 たしかにおっしゃるとおりで、私の作品を見た外国人の多くが「日本的なイラストだ」という感想を述べられたことがありました。場面も登場人物も日本以外の設定だとしてもです。私自身は「日本人だから」とか「日本人として」というような気持ちは一切ないのですが、生まれ育った日本という国、そしてこの福岡という土地の温かみや美しさが作品のどこかに含まれていて、それを感じ取っていただいているということであれば、とても嬉しいことですね。

使われている色は3~4色。
タイトル:Cheese NEW YORK!

――それでは、最後に世戸さんの今後の抱負についてお聞かせいただけたらと思います。

世戸 サントリー・トリスウイスキーのマスコットキャラクター「アンクルトリス」の生みの親である柳原良平さんや現代の商業イラスト界の第一人者ともいうべきソリマチアキラさんなど、尊敬する諸先輩方に一歩でも近づけるよう努力していきたいと思っています。

そして、もっと良いイラストの表現ができるようにオリジナルの作品も増やしつつ、たくさん仕事をこなして、将来的には活躍の舞台を世界へ広げていきたいと思っています。インターネットやSNSの普及もあり、世界とつながっている感は強いです。日本以外の国の商業イラストの世界がどういうものなのか、すごく興味がありますね。

 

――世戸さんの今後のご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

 

世戸ヒロアキ(せと ひろあき)
1990年福岡県生まれ。
トレンド感と普遍性を併せ持ち、デビューして間もなくファッション誌や大手企業キャンペーンのビジュアルを手がけ注目を浴びる。
現在はさまざまな広告や店舗壁画、ライブペイントなども行い活動の幅を広げている。

世戸ヒロアキさんの公式ホームページサイト

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