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画家・堀越千秋、最後の講演/アートフェアアジア福岡2016より【レポート】

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西山 健太郎
2017/09/05
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■「堀越千秋」という生き方■

――堀越さんの創作活動のキーワードは「土」ではないかと思っています。足元の土、地面に根差している、というようなイメージがあります。

そういう意識はあるかもしれませんね。マドリッドは石畳の街で足元に土はありませんが、ゴミとか板っぺらとかがあちこちに落ちていて、それを拾って洗濯板やまな板なんかをつくったりもします。アトリエの一室は拾ってきたものであふれていてゴミをためているようなものですね。(笑)
とはいえ、そもそも美に値段や名前はついてないんですよ。道端に落ちているものでも美しいと思えるかどうかなのです。

 

――陶芸についてはいかがですか?

マチエールや素材にこだわるところが絵と共通するところが多く、「画家は陶芸にはまりやすい」とよく言われますが、画家だけでなく全ての人がはまると思います。自分でつくったものを焼いてみるのが一番。火が9割方やってくれますから。
博物館で見ているうちは焼き物の良し悪しは何もわかりませんでした。それが自分でやり始めると良し悪しがわかってくるんですよ。上手い下手は関係ないです。

 

――川や海によく入られたりするとか。

自分自身、川や海に入ると自分が獣になったような気がしますし、恐怖も感じます。野生に身体が引き戻されるといいますか、そういう生命の危険やゾクッとするようなことは、都会では味わえない感覚ですね。川や海から上がったときは実に気持ちいいですよ。記憶は人の中にも地面の中にもあります。それらの交流が世界を形作っているような気がしています。そんな感覚を味わいたいというのが根底にあるのかもしれませんね。

 

――堀越さんはいつも本当に楽しそうです。どの写真でも満面の笑顔で。

子どもが楽しんで遊んだあとに描いた絵というのは本当に素晴らしいんですよ。絵を描かないといけない、ということが先にくるとよくないですね。それと同じことかもしれません。私も旅をして面白い人に出会っていろいろな話をしたあとには、創作意欲がいっそう高まります。

 

――堀越さんは福岡をよく訪れていらっしゃいますが、この街の印象はいかがでしょうか?

福岡は日本の地方都市では最も多く訪れている街でしょう。なんといっても、きれいな女性が多い。もう少し言うと女性の視線が違いますね。上から下まで見られて品定めをされているような…。(笑)

 

――もともと福岡は女性が多い土地でもありますしね。(笑)

そもそも、私は九州という土地が好きです。日本の文化はすべて九州から変わっていますし、九州から日本全国に伝わったものの多いと思います。九州は決して田舎ではありません。田園や山林の風景にしても長年の手が入っている。歴史の積み重ね、蓄積といったものをこの地域には感じますね。

■参加者からの質問■

――それではここで、ご来場の皆さまから堀越さんに対する質問を受けたいと思います。

質問者A 私は最近、自分にとっての「終の棲家」についてよく考えます。もしかしたら、日本ではなく海外にふさわしい土地があるかもしれないと思ったりもします。堀越さんにとって「終末の地」とはどこだと思われますか?

堀越 質問されたことは、つまるところ死生観の問題だと思います。私は「死は終わりではない」と考えています。墓石のイメージではないということです。死とは水の中に入っていくこと、別世界に行くこと、そんなイメージにとらえています。ひょっとしたらあなたは、「終の棲家」の話は別として、とても外国に行ってみたいのかもしれませんね。行きたいと思っている場所に行ってみたらいい。終末うんぬんということより、今、目の前のことに向き合い、楽しむことが大事だと思います。ある意味、私は毎日が(終末ではなく)週末。ウィークエンドです。(笑)

質問者B 堀越さんは長くスペインにお住まいですが、ご自身の絵に日本人としてのアイデンティティやその普遍性といったものが表れていると思いますか?

堀越 若いころは西洋で有名な画家の絵を模写するうちに頭が働かなくなり、自分らしい絵とは何だろうかと葛藤しているうちに角が取れてぐちゃぐちゃになって溶け合っていって、現在に至ったという感じです。ひとことで言うと、長年の修練とか洗練とか、そんな言葉になるんでしょうが。
スペインをはじめ世界各地を回る中で、育った場所やその記憶はどこまでも自分について回りますが、自分の中の国境は薄れていきました。「お前は何人だ」ということより「お前は何だ」「お前は何が好きなんだ」「お前は何が食べたいんだ」ということの方が重要になってきたのです。外国で日の丸を見て喜んだり涙ぐんだりするのは、全くの「初心者」だと思いますね。(笑)

質問者C 美術に関心がない人に関心をもってもらうにはどうしたらいいと思いますか?

堀越 よくわからないですね。ただ、自分のやりたいことをやって、「お前も一緒にやろう」と誘うことはできると思います。自分はいつもそうやってきました。それしかできませんし。
誰かが楽しそうにやっていれば、みんなが寄ってくる。そんなもんですよ。

 

サプライズでカンテ(スペインの民謡)
を熱唱する堀越さん

■おわりに■

――最後に、本日の講演会のタイトルである「美を見て死ね」に込めた思いについて教えていただけますか?

「ナポリを見て死ね」という言葉がありますよね。週刊誌の連載エッセイのタイトルとして、何かメッセージ性のあるものをと考えた結果こうなりました。スペインでは「まだセビリアに来たことがない人は幸せだ」という言葉があります。すなわち、この美しいセビリアの風景を初めて見る機会が残されている、と。
美とは自分が知らなかったものを初めて見る喜びだと思います。ぜひ美を見て死んでいただきたいですね。

 

――本日は素晴らしいお話をありがとうございました。今後のご活躍を心より祈念しております。


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講演名 特別講演会「美を見て死ね」
日 時 2016年9月10日(日)13:00~14:30
場 所 福岡アジア美術館 企画ギャラリー
講 師 堀越千秋氏(画家・作家)
聞き手 宇田懐(西日本新聞社)
香月人美(画廊香月/アートフェアアジア福岡エグゼクティブディレクター)

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