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【レポート】微笑みに隠された多文化――『タイ~仏の国の輝き~』を勝手に見る

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アルトネ編集部
2017/05/09
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P:全体で見ると、展覧会の前半は仏像の展開で、それがスコータイ時代に頂点に達して、それから日タイ交流史があって、ドーンと大扉がきて、絵画や工芸があって、現代のタイの人たちの信仰につながるという流れかな。後半はだんだん美術館というより博物館ぽくなって、いろんなエピソードがおもしろかったよ。

S:でも僕は、前半の、インド、スリランカ、クメール、インドネシアなどのいろいろな影響が混ざり合って、これはいったいなんなんだ、というところのほうがおもしろかったな。仏教がヒンドゥー教と混ざっているのはネパールとかチベットでは当たり前だよ。今はタイ南部にイスラム教徒が多いし、国全体で5%くらいを占める。まさに文化の交差点。あと19世紀の『従三十三天降下図』の彩色と陰影にはワット・プラケオ(バンコクの王宮にある寺院)の壁画と同じように絶対に西洋絵画の影響があるのに、解説には書いてない。

P:やっぱり解説読んでるじゃない!

『従三十三天降下図』(部分)
ラタナコーシン時代 19世紀
バンコク国立博物館キャプション

 

P:じゃあ最後に、それぞれ好きなもの、「この1点」を選ぼうよ。

S:一般ウケするのなら彫刻的にも工芸的にも精緻な技巧を尽くした『ナーガ上の仏陀坐像』なんだろうけど、ちょっとインドネシアぽいから、もっとワケわからない『菩薩頭部』。クメール彫刻をさらにディープにしたような強烈な表情、頭だけですごくでかい。これで全身が残っていたらとんでもないインパクトあっただろうと想像させる。

左:《ナーガ上の仏陀坐像》 シュリーヴィジャヤ様式 12世紀末~13世紀 バンコク国立博物館
右:《菩薩頭部》プレ・アンコール時代 8~9世紀 バンコク国立博物館

 

P:これはタイっぽくないよね。

S:タイ美術の特質は3C、クリーン(清浄)・クリア(明晰)・カーム(静寂)なんていわれていたけど、アジ美の常設展示に出ているタワン・ダッチャニー(1939~2014)を先駆として、90年代以後の美術がそれを完全にくつがえした。「タイらしさ」なんてのは、日本とは比較にならないほど複雑な文化的・宗教的・民族的な要素の交差・混合から抽出されたものなんだ。アジ美の『静寂な混沌』を見ればそういうタイ文化の複雑さがわかる。

P:(聞いてない)『菩薩頭部』って目がギラッとしててアニメのキャラになってもおかしくないよね。図録にはタイのお寺でしか見れない仏様の写真がいっぱいのってるから、タイに行ってもっとすごい仏像を見てみたい、と思う人がいたらそれも展覧会の大事な効果だよね。

S:人の話を聞いてないな。Pのベストは?

P:『花文把手付水注』。なんかかわいいから。

S:仏像じゃないじゃないか!今までの話はなんだったんだ!

《花文把手付水注》ラタナコーシン時代 19世紀 バンコク国立博物館

 

プロフィール

S ぬいぐるみのライオン。アート好きのブロガー&デザイナー。他人にきびしく自分にやさしい。

P ペラペラした生きもの。アジア好きのフリーター。自分にきびしく他人にやさしい。

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