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ストーリー、エロス…絵の美しさに留まらぬ鈴木春信展の魅力を深堀り!【レポート】

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伊勢田美保
2018/08/17
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第3章 江戸の恋人たち


「春信の作品には、若い男女を描いた名品が多く知られています。いずれも年齢で言えば10代。3章では、そんな初々しい江戸の恋人たちにたくさん出会えます」

絵の中にはそれぞれ違ったストーリーがあるので、今と置き換えて考えてみると一層楽しめそう。中でもモチーフとして気になったのはやはり、山田全自動さんも注目されていた虚無僧をテーマに描いたものです。昔の絵師たちがモチーフにしていたように、春信も頻繁に描いたテーマでした。

鈴木春信《伊達虚無僧姿の男女》
William Sturgis Bigelow Collection, 11. 19712
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

 

「虚無僧は、尺八を吹きながら家々を回り、托鉢をする修行僧で、ミステリアスでかっこいいモチーフとして、歌舞伎や絵の世界でよく取り上げられたんですよ」と佐々木さん。この絵は若いカップルが虚無僧コスプレをしたものらしく…なかなか突っ込みどころが満載ですが、絵画表現としてだけでも素晴らしいものがあるそうです。

「ぜひ、絵の右下から見上げてみてください。黒の着物地に、うっすらと模様が見えませんか」。促されて見てみると、おお〜確かに菱形の模様が!これは、着色なしの模様の版を上に押し付けて、模様をつけているそう。正面から見るだけでは真っ黒だったのに、ある一方向から見れば模様がびっしり浮かび上がる細工とは。こだわりがすごいです…。

「今回展示している絵は、このように写真ではわからないことばかりで…」と悩ましい表情を見せる佐々木さん。確かにこれは、実物を見ないとわかりません!ぜひ現地で見ていただきたい!

雪に埋もれた足を凹凸の模様をつけて表現した《雪の門前の男女(見立鉢木)》の一部。写真ではやはり、わかりづらいですね…。
鈴木春信《鷺娘》(部分)
明和3-4年(1766-67)頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11. 19503, Photograph © Museum of Fine Arts, Boston


春信の絵は、エロスの表現も見所の一つ。例えばこちらには、コタツの下から覗く男の足をなぞってる女性がいます。当時、女性の露出は少なく、歩く時にかかとがチラリと見えるくらいだったのに、この絵では膝まで大胆に見せています。

鈴木春信《「水仙花」炬燵で向き合う男女》

 傍らにある山田全自動さんの解説には、「彼氏がゲームばかりして相手してくれないのでちょっかいを出してみる」。なるほど、現代に当てはめればそういう絵にも見えますね!


さらに会場には、当時の情景が想像しやすくなる嬉しい工夫も。絵の中に出てくる人々が着ている着物や使っている小物に近いものが、福岡市博物館の所蔵コレクションから参考展示されているんです。

江戸期の着物。傍らにはそれぞれイメージに近い春信の絵が添えてある。

 

 

4章から始まる子供をモチーフにした絵(下写真)に出てくるお守り袋も。

 

 

右下の子供が帯にお守り袋をくくりつけているのがわかる。
鈴木春信《子どもの獅子舞》

第4章 日常を愛おしむ

一転、江戸の庶民や子供の絵が登場します。こうした絵が売り買いされた背景として佐々木さん曰く、
「当時の江戸は、世界的に見ても最先端の都市。江戸城の見える場所に生まれ、水道水で産湯を浴び、精米された白いお米を食べて育った人々のことを江戸っ子と呼びました。江戸っ子として生まれ育ったことは江戸の人たちの誇りでした。自分たちの暮らしを描いた絵を見ることも、幸せを感じる行為だったのではないでしょうか」。

春信展唯一の撮影スポット「江戸ストリート」は顔パネルを持って撮影できる!

 

会場内唯一の撮影スポットを通り抜けると、5章へ。展示も、いよいよ終わりに近づきます。

 

第5章 江戸の今を描く

「ハイカルチャーだった絵暦を、錦絵として一般に普及させたのが春信。人気に火がついた理由としては、テーマ選びもあるのではないかと言われています」。

その一つは、「有名観光地」を描くこと。江戸の人々はもちろん、旅人もお土産に持って帰りやすいため、爆発的に人気が出たのではないかといわれているそうです。

そしてもう一つが、「会いに行けるアイドル」を描くこと。例えば、神社境内にあったお茶屋の看板娘、お仙。美人と噂の彼女を浮世絵に描いたことで、当時の人々は絵として楽しむとともに、「あそこに行けばお仙さんに会える」と嬉々としたようです。今のアイドル人気と通ずるものを感じずにはいられません。そして絵を通して人を喜ばせたいという春信の思いまで、伝わってくるようです。

鈴木春信《浮世美順寄花 笠森の婦人 卯花》

「本当に、現代に当てはめていくと、身近に感じるものがたくさんあります。当時の吉原の美人遊女を書いた本は、まるで憧れのアイドルのプロマイドや歓楽街のガイドようなものにも思えますしね」

 

当時実在した吉原の遊女166名を多色摺で表した豪華絵本。
鈴木春信《絵本青楼美人合》

 

エピローグ 春信を慕う

描く美人画がもてはやされ、一躍、時代の寵児となった春信。しかし錦絵を描き始めてからわずか5年で、死去。その後、他の絵師たちはこぞって「春信美人」を真似て描いたそうです。しかし、エピローグに出てくるそれらの絵は、どれも微妙に顔が違います。春信の描く美人画は、やはり特別な魅力を持っているなと思わされました!

喜多川歌麿《お藤とおきた》

というわけで、じっくりと堪能した春信展。こうして一点一点を見ていくと、絵としての美しさはもちろんのこと、その奥にある隠された主題やちょっと突っ込みたくなるストーリー、ちょっとしたエロスなど、いろいろな楽しみ方ができました。「浮世絵において重要な転換期を担い、上流階級にも庶民にも愛された春信の絵の美しさを、ぜひ現物を見て知っていただければ」と佐々木さん。

一見、浮世絵の展覧会というとお高く思えますが、全くそんなことはなく、多方向から楽しめるものなんだというのが今回よくわかりました。みなさんもぜひこの機会に、春信の絵に会いに、会場を訪れてみてはいかがでしょうか?

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