ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信展
2018/07/07(土) 〜 2018/08/26(日)
09:30 〜 17:30
福岡市博物館
伊勢田美保 2018/07/25 |
福岡市博物館で8月26日(日)まで、「ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信」が開催中です。美人画の名手として浮世絵の歴史を動かしたとされる春信。日本以外では質量ともに世界一の日本美術コレクションを誇るボストン美術館から、春信作品97点を含む約150点が一斉展示されます。
会期中の7月27日(金)と8月17日(金)には、浮世絵イラストがSNSで大人気の「現代の浮世絵師」こと、山田全自動さんがアテンドしてくれる観覧ツアー「みどころダイジェスト」も開催。山田全自動さんって何者?みどころダイジェストはどんな内容になる?をお伺いするべく、直前インタビューを敢行。山田さんと一緒に、一足先に会場をめぐってきました!
◎山田全自動さん
福岡市在住のウェブデザイナー。クライアントから打診を受けたことをきっかけに、約5年前からタブレット端末と専用のペンでイラスト制作を始める。個性のあるイラストを模索するなか、浮世絵調の人物を描いてSNSで発信をしたところ、周囲の好評を得る。2016年12月からは、インスタグラムでの1日1投稿が話題に。浮世絵調イラスト+日常のあるあるネタという独自のスタイルがうけ、約1年半の間にフォロワー数は26万4000人を突破した。
-そもそも浮世絵調のイラストを描こうと思ったきっかけは?
「本業はデザイナーですが、クライアントに『イラストも描けない?』と言われることが度々ありまして、練習してみようと。風景や漫画風の絵などいろいろと試すなかで、なんとなく浮世絵をモチーフに描いてみたら、ものすごくしっくりきたんですね。もともと古地図とか浮世絵といった歴史を感じるものが好きではあったので、最初は江戸の町人が今風のバイトをしていたり、ギターを弾いたりするイラストのみを描いてフェイスブックにアップしていました。
ある時、そのイラストに一言、解説を書いて出したところ、絵よりもそのネタが面白いって言われて。ちょっと嬉しくなっちゃって、続けていたらここまで来た感じです」
-些細な日常がテーマで親しみが持てますし、ネタはちょっとマニアックなのに「あ〜わかるわかる」となる、着眼点が面白いです。何か意識されてることはありますか?
「イラストは 、一般の方が〝江戸時代の人といえば〟で思い浮かべるような髪型や服装にして、受け入れてもらいやすいようにと考えています。ネタも共感してもらいやすいように、誰も理解できないことと、みんながすごく理解できるところのちょうど中間くらいを突くように意識していますね。時々すごい外しますけど…だんだん精度は上がってきたかな。あと、浮世絵は、江戸時代において、庶民も気軽に楽しめるものだったと思うんです。だからSNSへの投稿も、1日の終わり、ふっと一息つける夜の時間帯にして、みなさんの目にさりげなく入るように意識しています」
-絵の参考にしている浮世絵師はいらっしゃいますか。鈴木春信のことはどのくらい知っていましたか?
「浮世絵といえば葛飾北斎かなと、最初は北斎漫画(北斎が弟子のために作った絵手本集)を真似して、そこからだんだん自分なりの表現に変えてきました。
春信は…名前と作品くらいは知っていましたが、あまり詳しくは知らなくて。これだけまとまった数を見たのも今回の展覧会が初めてです。正直、最初はどれも同じに見えました(笑)でもじっくり一つ一つ見ていくとそれぞれのテーマや内容があるばかりでなく、登場人物のキャラがものすごい立っていて面白い。今回の展覧会では、各章の説明や、いくつかの絵に、私なりに感じたり解釈したことを解説イラストとして描いています」
ということで、ここからは会場へ。実物を前に、「みどころダイジェスト」を、少しだけ体験させてもらいました。自由な発想で絵の面白いところ探しをするような山田さん独自の浮世絵の楽しみ方、必見です!
まず、山田さんの目に止まったのは、《見立三夕「定家 寂蓮 西行」》。
「夕暮れの和歌を詠んだ3人のお坊さんを、3人の美女に変えて描いているという(笑)これは一枚だけど、本当は縦に3分割して、バラバラで売られてた。一種のアイドルのカードみたいなものですよね。今も歴史上の人物を萌キャラ化したりするけど、全く同じじゃないですか」
「この絵も春信らしい絵だなあと思います。春信は裾の描き方がいいんですよね!足に持ち上げられた裾のしわとか、本当に綺麗。僕、しわフェチ なんですが(笑)春信もそうだったんじゃないかな。春信の着物の裾の描き方を真似しようと思って、インスタで2回くらいアップしたこともあるんですが、難しくてそれ以来描いていません・・。なんでこんなにきれいに描けるんだろう。すごいセクシーですよね」
お次はこちら。
「《外出の支度》は、解説には若い侍が袴をはくのを娘に手伝ってもらっているとあるけど、僕には、『なんか結び方おかしくない?解けてるよ』って女の人が言ってるように見えます。むしろ女性からアクションがあったんじゃないかと。今も、例えば会社とかで肩にゴミついてるよって女性に取られたらものすごいドキドキするじゃないですか、そんなシーンなんじゃないかな〜」
というわけで山田さんが描いた解説イラストが、こちら。
山田さんは展示の中でも、2章に出てくる、古典物語や故事の名場面を潜ませた絵を楽しむ『見立絵』が特に好きなんだそう。
「今は解説を読むとわかることですが、例えばこの絵は一見、ただ女の人が猫を可愛がってる絵に見えますが、源氏物語をベースにしている。女性は光源氏の妻である女三宮で、その視線の先に蹴鞠をする息子の友人がいる。そこに猫が走って行ってしまったことをきっかけに、彼と密通してしまう(!)という場面を描いているんですね。僕は、彼女は確信犯だったんじゃないかと踏んでいます…」
「これは夜中に男女が菊を盗もうとしてる絵です!花が傷まないように雨除障子までつけて、花壇の持ち主は相当大切に育ててたはず。それを夜中に盗もうと…。しかも、手燭を持った女の人が、『私のことが好きならそれ取りなさいよ』って、男にけしかけてるように見える。一見ほのぼのした絵ですが、じっと見ていたら、二人とも悪い目に見えてくるんです(笑)どこか背徳感すら感じますね」
そして今回、山田さんが長く立ち止まったのがこちらの作品です。
「当時、歌舞伎や浮世絵の世界では、虚無僧の姿に扮する人々がよく登場したらしいんです。しかもこれ、カップルでペアルック。なんじゃそりゃですよね。天蓋(笠)と尺八を持ってるけど、尺八を吹いたりはできないはずだから、持ち歩くだけだったんじゃないかな。今でいうと何だろう…陸(おか)サーファーみたいな感じ?きっと親とかに、『またそんな格好して。恥ずかしいからやめなさい!』って言われてたんじゃないでしょうか(笑)」
話を聞けば聞くほど、浮世絵ってこんなに面白かったんだ!と好奇心を掻き立てられます。そして面白いといえば、会場内に一カ所設けられた撮影コーナーも外せません。
「インスタに写真をアップしたいけど、顔を写したくないって人が多いので、じゃあ顔を隠そうということで、顔パネルを作りました。今まで展示会ではだいたい2種類しか置いてなかったけど、今回は大量。こんなにあるのは福岡市博物館が初めてですよ」
鑑賞物としてだけではない、山田さんならではの浮世絵の楽しみ方に、終始笑いに包まれた模擬ツアー。ここでは紹介しきれないほど、ディープな解説が盛りだくさんでした。「山田全自動とめぐる!春信展みどころダイジェスト」は、本展覧会の半券があれば無料で参加OKですので、ぜひぜひ、参加してみてください。
またツアー参加が難しい方でも、山田さん曰く、「解説を読めば、絵を見るだけより、もっと楽しめますよ。本当は全部の解説を読むといいけど、まずは僕が描いたイラスト解説を読んでもらえれば。わかりやすく描いたつもりですので!」とのこと。
「春信の描く人は、どれも能面みたいに表情が〝ノーリアクション〟で分かりづらい。だからこそ、あなたどういう気持ちなの?って想像できるし、受け手によって顔が変わって見える魅力があるんじゃないでしょうか。
浮世絵は難しい、文学的なものと思われがちですが、やっぱり娯楽の一つ。だから絵から勝手に想像を膨らませてみたり、僕の『裾』みたいに、フェチポイントに注目するとか、いろいろな楽しみ方をしてみたらいいと思います」
会場の外には、ミニ掛け軸やステッカーなどの山田全自動さんグッズや、期間限定で全自動さんのイラストと一緒に写真が撮れるフォトブースもあり、まさに「ネタになる」お土産がたくさんゲットできそう。この機会にぜひ、お出かけしてみてくださいね!
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