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【コラム】「一歩踏み出し、知恵を絞って進むのが人生」 27日から福岡市で「樹木希林展」 一人娘・内田也哉子さんに聞く

2025/11/14 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

●こまやかに創意工夫、「家族」、無言館…
 
テレビや映画などで、無二の存在感を示し続けた俳優、樹木希林さん(享年75)が亡くなり、9月で7年を迎えた。今月27日~12月15日、福岡市・天神の大丸福岡天神店で、樹木さんの遺品などから足跡をたどり、信念に触れる「樹木希林展~遊びをせんとや生まれけむ~」が開かれる。一人娘の内田也哉子さんに、母への思いや、母から受け継いだものなどを語ってもらった。
(大矢和世)

樹木希林さん
(ⓒPhoto by Nobuyoshi Araki)

 樹木さんは、がん治療のため長く鹿児島市の医院へ通ったり、九州新幹線をモチーフとした映画「奇跡」(是枝裕和監督)に出演したりと、九州との縁もある。也哉子さんは「亡くなった後、取材依頼などで疲弊していた私に、母の友人が『大丈夫よ。世間なんて、1年もたてば忘れ去る』と言ってくれたけど、そうなっていない」と苦笑いする。樹木さんの写真や映像の使用申し込みは絶えないといい、「折に触れ、人が自分の思いも重ねて母を思い出してくださっているのは、すてきなこと」とも語る。

 展示では、樹木さんが随所に光らせた創意工夫が目を引く。映画賞のトロフィーを「そのまま飾るのは恥ずかしい」と溶接所に持ち込み、ガラスシェードを取り付けたランプがある。友人らからもらい受けた不要なセーターなどをほどき、一つ一つ編み直してつないだタペストリーもあった。「彼女の手で、アイデアで息吹を吹き込んで、それをまた生活で利用して。『物にも冥利(みょうり)がある』とよく言っていました」

衣装や写真、ランプなどが並ぶ展示会場(東京展より)

 さらに写真館で撮影した家族のポートレートも印象的だ。樹木さんと内田裕也さん夫妻、也哉子さんと本木雅弘さん夫妻、3人の孫たち。「私は父と一緒に暮らしたことがない。『うちはバラバラな家族だったから、再会した時には捕まえて、写真館に行って、同じ時間を過ごしたよっていう証拠のために必死だった』と半分冗談で母は言ってましたね」。一般的な形とは異なっても思い合う「家族」だと、樹木さんの意志で残された肖像なのだ。

 昨年、也哉子さんは「戦没画学生慰霊美術館 無言館」(長野県上田市)の共同館主に就任した。文筆家の窪島誠一郎さんが、画家野見山暁治さん(福岡県飯塚市出身)との出会いを機に、全国に残された画学生たちの絵を集めて設立した場所だ。生前の樹木さんは戦後70年の番組で無言館を訪れて以来、窪島さんと交流を続けていた。

内田也哉子さん

 也哉子さんは、母の足跡をたどる番組の撮影で同館を訪ねた。窪島さんは樹木さんとの思い出とともに、無言館設立時を振り返ってくれた。50歳過ぎまで、先の戦争を顧みない人生を生き、その時野見山さんに出会ったこと。画学生たちは、ただ美しいもの、いとおしいものを描きたい一心であの絵を残したこと。「その純粋な絵を集めているという、ある種の罪悪感も抱えながら、窪島さんは戦争や平和、芸術と向き合っておられる」

 後日、窪島さんに「若い人にもっと絵を見てもらいたい」と共同館主への就任を持ちかけられた。也哉子さんは荷の重さを感じつつ、母の言葉を思い出した。「誰か一人でもいいから日陰になっている場所、人の役に立てる人生の送り方を考えてほしい」。そして「一歩足を踏み出すことが、一つの勇気。できないと思ったら、そこでまた知恵を絞って進むのが人生」だと。内なる母に背を押され、就任を決めた。

 無言館には悲しく重い空気が流れているのではとビクビクしていたと明かす。ただ実際に身を置くと、一つ一つの絵が持つエネルギー、生命力、愛を感じたという。「それなのに絵筆を銃に換えさせられ、続けられなかった。平和なくして芸術は生まれ得ない。絵をめでられるような世の中を、続けていきたい」と決意した。

 就任後は子どもや学生を招いての対話型鑑賞会を重ねる。「ずっと学びを、対話をやめない。この縁は母が残してくれたもの」。言葉、美意識、知恵。会場に並ぶ遺品から漂う樹木さんの気配が、見る人の背をそっと後押しするかもしれない。

◇展示は本館8階催場。一般1500円など。大丸福岡天神店=092(712)8181。

=(11月14日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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