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インディペンデント・キュレーター、山口洋三さんが選ぶ2024年のベスト展覧会3選

2024/12/25 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 2024年も残すところあとわずかになりました。
 現代アート、サブカルチャーと好奇心を刺激する展覧会を届けてくださる福岡在住のインディペンデント・キュレーター、山口洋三さんに2024年のベスト展覧会3選をお伺いしました。1年の振り返りにぜひご一読ください。       
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山口洋三
(インディペンデント・キュレーター/オフィスゴンチャロフ)

 今年の展覧会ベスト3の選出を依頼された。
 現代美術からサブカルチャーまで企画圏内に入れている筆者が選ぶとやや偏るかもしれないが、観覧した範囲で選出するにあたり、テーマを定めた。それは「コレクション/キュレーション」である。
 

「福岡アジア美術館開館25周年記念コレクション展 アジアン・ポップ」
 会場:福岡アジア美術館 会期:2024年4月20日〜9月3日

 コレクション展というのは往々にして、美術館の仕事の「ルーティン」として行われがちであるが、その態度はなんとなく鑑賞者にも伝わってしまうものだ。アジア美術館は、開館25周年を迎えるにあたり昨年からコレクションの展示方法と打ち出し方を一新。歴史にそった年代順展示を止め、1つのテーマのもとにアジア現代美術の立役者的アーティストを目立たせていた。館内サインや広報の仕方も見直し、一種の企画展として打ち出した。
 9月からの「しなやかな抵抗」も新収蔵のホワン・ヨンピン作品を起点に同様の試みを行っていて、観客を引き付けている。
 アジア美術館は当面この方法を続けるだろう。他の美術館でも、いつでも見られる固定の展示作品をあえて決めず、企画担当者の裁量で見せるやり方が散見される。その際重要であるのは、企画担当者の偏った趣味に陥ることなく、美術館の「自己紹介」になっているかどうかだ。コレクションに即したキュレーションが今後ますます重要になる。

「UESHIMA MUSEUM 
 オープニング展~現代アートで未来とつながる新たな視点~」
 会場:UESHIMA MUSEUM 会期:2024年6月1日~2025年3月末

名和晃平「PixCell-Sharpe's grysbok」2023年  
UESHIMA MUSEUM COLLECTION

 事業家、投資家の植島幹九郎が所有する現代美術コレクションを展示するための美術館UESHIMA MUSEUMが今年6月1日に開館した。植島自身が設立し、自ら館長に就任している。その開館記念展である。国内の現代美術館にもあまりコレクションされていない、今を時めく国内外のアーティストの近年制作の作品が並ぶ。同館および植島自身が「同時代性」をコレクションのビジョンとして掲げているように、「いま」の感覚が館内すべてにみなぎっている感じが伝わる。フロアごとにテーマが設けられ、階を上がるとまた違った展示風景が広がる。個人コレクションの場合、収集=キュレーションといった側面があるが、植島の場合は初めから公開を念頭に作品収集をしており、その意味で本展の展示もまた植島の「同時代性」へのまなざしがそのまま反映されたものといえる。
 ちなみに、今年9月の「FaN Week」のコレクターズ展(私がキュレーション担当)において、植島と高橋隆史のコレクションをお借りして展覧会を開いた。高橋のコレクションによる展覧会も現在「T2Collection Collecting? Connecting?」として東京のWHAT MUSEUMで開催されている。現代美術シーンの中での個人コレクターの影響力が今後増大していくに違いない。

「Perfume Disco-Graphy 25年の軌跡と奇跡」
 会場:TOKYO NODE 会期:2024年8月9日~10月14日


 皆さんご存知の3人組のテクノポップアーティストPerfumeの25年の軌跡を振り返る展覧会。「上演芸術」である彼女たちの動きと音を、どうやって展示に落とし込むのか、と興味を持った。メジャーになってからは、デジタル技術と彼女たちの強靭にして正確にシンクロする身体の動きを結びつけたライブやミュージックビデオのビジュアルが鮮烈で、ライゾマティクス率いる真鍋大度(第34回福岡アジア文化賞大賞受賞)がPerfumeの演出に関わるようになってからは、そのレベルが一層高くなった。
 メインの展示室に展示されていた映像インスタレーションは、過去のステージを支えた仕掛けを観客が追体験できるものとなっている(実際にそれをするのはちょっと恥ずかしいけど)。そして時折展示室全体に投影される代表曲に合わせて3人が踊る映像が圧巻。
 過去の映像やグッズなどの展示は最小限に抑えてあり、これまで私が述べた「コレクション=実体のある作品」のキュレーションからは遠く、いわゆる「展覧会」にありがちな方法論は後景に退けられている。それゆえに一層、展覧会の全体監修を行なった演出振付家のMIKIKO、真鍋ほか本展企画制作にかかわったスタッフのキュレーション力には舌を巻いた。Perfumeファンではない美術ファンは、この展覧会を見たのかどうか?

                             (文中、敬称略)

文/山口洋三
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山口洋三(インディペンデント・キュレーター/オフィスゴンチャロフ)
1969年生まれ。福岡市在住。福岡市美術館、福岡アジア美術館で30年にわたり学芸員を務め、作品収集、コレクション展示に携わる一方、現代美術やサブカルチャーなど多数の展覧会を企画してきた。2024年にフリーランスとなり、企画展制作を中心に活動中。

 

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