江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2020/10/25 |
福岡のストリートカルチャーから出発し、認知度を上げてきたこの人の作品を、美術館で目にするのは意外な感じもする。都会的な女性のポートレートが人気を集めるアーティストKYNE(キネ)=福岡県出身=の幅13メートルに及ぶ直筆壁画が、福岡市美術館に登場した。価値の定まったファインアートを収集展示することが多い公立美術館としては珍しい試みだ。館内に設置しながら、外からも窓越しに見られるように工夫がなされ、ストリートから頭角を現した作家に似つかわしい展示にもなっている。
物憂い女性像、地元発のアートとして紹介
KYNEが描く女性のポートレートは、モノトーンの線画で表現されることが多い。女性の表情はどこか物憂い。最大の特徴は目だ。にらむでもなくほほえむでもない。ただ明らかに何らかの意思を持っている。女性が横たわる絵柄の同館の壁画も、その目が何を物語るのか、解釈は鑑賞者に委ねられている。曖昧だがその分、見る人は自分を投影しやすいだろう。
同館の岩永悦子運営部長は「一見『かわいい女の子』だが、それだけにとどまらない普遍性がある」と評し、地元の最新アートとして紹介することを決めた。
雑誌「カーサブルータス」の表紙や、女性シンガーiriのCDジャケットなどを手掛けたKYNEは1988年生まれ。実名や顔は公開しておらず、経歴にまつわる情報も少ない。モノクロの平面的な線と面で構成する絵は、大学で日本画を学んだことの影響かもしれない。ストリートアートとして広く浸透していった過程について、本人は「モノクロの人物ポートレートをステッカーにしてあちこちに貼るうちに認知された」と、ウェブ版の雑誌インタビューで振り返っている。
壁画は8月下旬から約2週間で描き上げ、9月9日から公開。KYNEは福岡市美術館を取り上げた雑誌「カーサブルータス」(今年11月号)に「公共空間にストリート出身の自分が制作することで、公共性と自由を考えるきっかけになれば」とコメントを寄せた。
館内の所蔵品を見学すると、ちょうどコレクションの最後の一点であるかのように、大型の窓に面した出口付近でKYNEの作品が待ち受ける。国内外の大型アートフェアにも参加する若手作家を外から見ることもできる壁画の形で起用することは、美術館側からすれば、創作や交流の場として地域に開いていくアートセンター的な狙いがあると言えるだろう。作家にとっても今後の足がかりとなる新作発表の場となった。同館は、今後も若い作家に機会を与える取り組みを展開していきたいという。(諏訪部真)
=(10月22日西日本新聞朝刊に掲載)=
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