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学芸員の目 よみがえる正倉院宝物<中>樋笠 逸人さん(専門・日本古代、中世史) 意匠のバードウオッチング

2021/05/29 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
模造 螺鈿紫檀阮咸(部分)=東京国立博物館蔵=には、2羽のオウムが舞っている

 正倉院宝物の美を、精緻な再現模造の姿を通じてお届けする本展。国際色豊かな天平文化のイメージと、再現模造の優れた技術を一度に楽しむには、会場での「バードウオッチング」をおすすめしたい。

 最初に目を引くのは「螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)」という弦楽器に舞うオウム。虹色に輝く羽根が夜光貝で表現され、裏側を彩色した琥珀(こはく)や玳瑁(たいまい)がはめ込まれている。白銅製の「花鳥背八角鏡(かちょうはいのはっかくきょう)」や、「銀平脱合子(ぎんへいだつのごうす)」という碁石入れにも、旋回する2羽のオウムが登場する。くちばしにくわえた玉飾りやブドウの枝は、奈良時代と同時期の中国で流行した、ペルシャ由来のモチーフだ。

 正倉院宝物にはヤツガシラの姿もよく見られる。扇状の冠羽を持つ、大陸の渡り鳥だ。「木画紫檀双六局(もくがしたんのすごろくきょく)」は、白黒のしま模様がある羽根の一枚一枚を、幅1ミリ程のモザイクで表している。緻密な文様を再現した製作者の技術にも注目したい。他には「紅牙撥鏤碁子(こうげばちるのきし)」や「緑牙撥鏤尺(りょくげばちるのしゃく)」などにも見られるヤツガシラは、奈良時代に意匠として愛された。ところが、染め象牙を彫った「撥鏤」という技法が途絶えたのと同じく、平安時代以降に工芸作品から姿を消してしまう。

 近現代の名工たちは試行錯誤を経て、歴史に埋もれた正倉院宝物の製作技法と、奈良時代に特有の鳥たちの意匠を、現代へよみがえらせた。再現に情熱を傾けた心は、異郷の鳥の姿に憧れた奈良時代の人々と、どこかで通じ合っているのかもしれない。

=(5月25日付西日本新聞朝刊に掲載)=
 

●特別展「よみがえる正倉院宝物 再現模造にみる天平の技」
 6月13日まで、太宰府市の九州国立博物館。奈良・正倉院宝物の精巧な再現模造を展示。一般1600円など。問い合わせはNTTハローダイヤル=050(5542)8600。

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