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アートを大衆に「開放」 福岡市美術館で「キース・ヘリング展」【コラム】

2024/07/29 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

言葉や国を越える普遍性

 シンプルでかわいくて軽やか。福岡市美術館(同市中央区)で開催中の「キース・ヘリング展 アートをストリートへ」は、米国の画家キース・ヘリング(1958~90)に多くの人が抱くイメージをひっくり返すかもしれない。画業をたどる約150点は、大衆や社会に向けてアートの地平を切り拓き、31年を駆け抜けた青年の複雑で多彩な横顔を見せる。

地下鉄構内で「サブウェイ・ドローイング」を描くキース・ヘリングを記録した写真も展示されている(Keith Haring Artwork ⓒKeith Haring Foundation)

 ピラミッドやUFO、性別も人種も不明な人や動物のシルエット。社会風刺にも、思い付いたままの落書きにも見える。ヘリングを世に知らしめた「サブウェイ・ドローイング」はニューヨークの地下鉄で描いた作品群。広告板に張られた紙にチョークで素早く描いて列車に飛び乗り、別の駅でまた描くことを80年から6年間続け、違法行為として何度も逮捕された。本展では7点を紹介している。

 20歳でニューヨークへ出たヘリングは、美術学校で絵画や映像を幅広く学んだ。専門教育を介さない芸術に光を当てて「アール・ブリュット」と名付けたジャン・デュビュッフェにも影響を受けたという。当時の日記には<アートは大衆を無視した、少数のブルジョアのために作られるべきではない>とある。

 その頃、街は貧困や犯罪がまん延していた。一方で社会への反抗心をエネルギーにした音楽やアートが熱を帯びていた。ヒップ・ホップミュージックの発信地であるクラブに通ったヘリングの出発点は、そんなストリートからだった。グラフィティがひしめく地下鉄は危険な街の象徴だが、ヘリングにとっては作品を多くの人に見せ、アートを大衆へ開放する最適な場所だった。制作は「正統なアート」の問い直しでもあった。      

「無知は恐怖 沈黙は死」(左)と「沈黙は死」。ピンクの三角形は、ナチスが強制収容所で男性の同性愛者に付けた識別バッチをモデルにし、差別への抵抗を示している

 自身がゲイであると公表した当事者であり、差別が身近にあったヘリング。世界で有名になっていったが、自分らしくいられるのはなお、有色人種や同性愛者などの「マイノリティー」が集うコミュニティーだった。HIV予防や反黒人差別、麻薬撲滅、核廃絶といった社会的メッセージを盛んに発していった。

 本展では、88年の広島でのチャリティーイベントで描き下ろした「ヒロシマ 平和がいいに決まってる‼」を含む、アート・アクティビストの先駆者としての11作品を見せる。

 そのうちの一つで、3人のシルエットが並ぶ「無知は恐怖 沈黙は死」(89年)は、日光東照宮の「三猿」のようだが、伝えるのは正反対のメッセージだ。エイズへの無関心や差別に対し「目を向け、声を聞き、発言しよう」と訴える。ピクトグラムのような造形で構成した絵は、言葉や国や時代を越えて現代社会に届く普遍性がある。

 トレードマークの「ラディアント・ベイビー(光る赤ん坊)」が代表するように、ヘリングは人間や犬、妊婦などのモチーフをさまざまに組み合わせて描き、ほとんどの作品について意味を語らなかった。繰り返し描いたモチーフを表のように並べた「レトロスペクト」(89年)を見ると、一つ一つがヘリングの言語で、派生した作品は暗号文のようにも思える。

 ただ「解読」しようとする鑑賞者にヘリングは言う。<鑑賞者もアーティスト。どう考え、どう理解するかだ>。アートを「開いた」だけでなく、どう関わるかも個々に委ねる。ヘリングの作品と言葉は、分かりやすさや正解を、他者やAIにまで求めている現代の私たちに、主体的に生きて、主体的に未来を創ろうと呼びかけているようだ。 (川口史帆)

■キース・ヘリング展 アートをストリートへ
9月8日まで、福岡市美術館。一般1800円など。実行委員会(東映)=092(532)1081。 

=(7月25日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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