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【コラム】コレクターズⅢ/Turning the Worldに込められた意味~世界を回して向きを変える?/

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アルトネ編集部
2024/09/30
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企画展「コレクターズⅢ」植島氏のコレクションの展示風景プション

 FaN Weekの一環として、福岡市美術館で開催中の企画展「コレクターズⅢ―Turning the World―」では、植島 幹九郎(UESHIMA MUSEUM 館長)、高橋 隆史(株式会社ブレインパッド 取締役会長)のふたりの事業家のアートコレクションを紹介している。本展のゲスト・キュレーターであるインディペンデント・キュレーターの山口洋三氏に展覧会の意義や見どころについて寄稿をいただいた。

◇◇
 福岡市が主催する現代アートのイベント「FaN Week」は、2022年より始まり、今年で3回目を迎えた。今年で9回目を数えた「ART FAIR ASIA FUKUOKA」(AFAF)とも会期を重ね、福岡市民を中心に、アートに親しむ機会を増やす試みである。
そのイベントの1つが、福岡市美術館で開かれる「コレクターズ展」で、これは、現代アートの作品を積極的に収集している実業家に焦点を当て、彼らのコレクションの代表作品を展示し、一般観客に作品を鑑賞するだけでなく、実際に作品を収集するマインドを普及する目的もある。


 「コレクターズIII―Turning the World」(以下、本展)では、就職・採用支援を行う株式会社ドリームキャリアを創業し、その後数々の会社を設立してきた植島幹九郎氏、そしてビジネスにおけるビッグデータ活用を推進する株式会社ブレインパッドの共同設立者である高橋隆史氏のコレクションをお借りすることとなった。2人とも、国内の20~40代のアーティストの作品を中心に活発な収集を行っており、日本のアートシーンにおいて相当な影響力を持つトップコレクターである。
 私は本展のキュレーターに指名され、2人のコレクションから30人のアーティストによる34作品を選定し、作品の借用に立ち会って点検などを行い、あらかじめ作成した展示プランに従い会場での展示作業の監修を行った。

企画展「コレクターズⅢ」植島氏のコレクションの展示風景


 ところで、「アートコレクター」と聞いて、読者はどんなイメージを持つだろうか。「お金持ち」が道楽で作品を集めているイメージが強いだろうか? 確かにそうしたコレクターもいるに違いないが、かの旧石橋美術館(現・久留米市美術館)、旧ブリヂストン美術館(現・アーティゾン美術館)を設立した久留米出身の実業家、石橋正二郎の地元や国家への文化貢献の例を引くまでもなく、相当数のコレクションを有する実業家は、社会に貢献することが使命として求められるものである。

 両氏はその使命をしっかりと心得ていて、コレクションの公開に積極的だ。植島氏のコレクションの一部は、彼自らが設立して今年6月に東京・渋谷に開館したUESHIMA MUSEUM(https://ueshima-museum.com/)にて公開されている。一方の高橋氏のコレクションは、常設の展示場所こそないが、今年10月4日からWHAT MUSEUMで開催される「T2 Collection 『Collecting? Connecting?』展」(https://what.warehouseofart.org/exhibitions/t2-collection/)に、その一部が公開される。いずれの内容も、本展とは大きく異なっているので、機会あればぜひ上記の美術館、展覧会を見ていただきたい。
 さて植島氏は40代半ば、高橋氏は50代前半と、私より年下であるけれど、自ら興した会社を率いて日夜奔走している。しかし、収集している作品やアーティストの話になると、2人とも素にもどったかのように饒舌で、またアートへの愛情が深いことが察せられた。
 早いうちからアートに親しんできたように思われるかもしれないが、実は2人ともアートに魅入られてからまだ日が浅い。植島氏は本格的なコレクションを開始してまだ約2年、高橋氏は約6年程度である。日夜数々の社会問題解決のために実社会の中で悪戦苦闘する実業家が、なぜアートに魅力を感じ、コレクションを形成するまでになったのか。

企画展「コレクターズⅢ」高橋氏のコレクションの展示風景
同じく高橋氏のコレクションの展示風景

 それは、1つには、海外に比べて日本の美術市場がまだ小さいことを「社会課題」ととらえ、自らが市場のプレーヤーとなることで少しでもその問題の解決に貢献できれば、という想いがある。もう1つは、新しい制作意図やアイデアで作品を制作するアーティストの姿に、新しい事業を興そうとする若い起業家と同じ姿勢を見出して共感しているからである。彼らの収集してきた作品の大半は、先ほど述べた通り、国内美術館ではまだ収集の進んでいない20代から40代の国内の若手アーティストの作品である。つまり、若いアーティストの作品を購入することが一種の「投資」なのである。しかしその「投資」は金銭的な見返りを要しない。彼らが作品を収集することでアーティストが世界に羽ばたくことがなによりの「成果」なのである。
 こうして、コレクターやアーティストの意図をとらえながら企画制作していった本展であるが、サブタイトルに「Turning the World」(世界を変える)とつけた。ChangeではなくTurnを選んだのは、回して向きを変える、という意味を込めたかったからである。それは、コレクター2人の、企業人として社会課題に向き合う姿であり、コレクターとしての姿勢でもあろう。それは、新しいアイデアで作品制作に挑戦し、美術の歴史に挑み、方向を変え、やがてひっくり返そうとするアーティストの試みとも重なる。制作の積み重ね、収集の積み重ねが、世界の方向に何か影響を与えるのではないか?
 彼らの態度が、本展の作品の並びににじみ出て、来場者の皆さんにも伝われば幸いである。

(出品アーティスト)*姓の五十音順
ダニエル・アーシャム
井田幸昌
井上七海
今津景
浦川大志
大竹伸朗
大西茅布
香月美菜
北川宏人
清川あさみ
カタリーナ・グロッセ
顧 剣亨
近藤亜樹
三枝由季
許寧
田島美加
土取郁香
中園孔二
名和晃平
長谷川彰宏
シュテファン・バルケンホール
ベルナール・フリズ
松田将英
水上愛美
三家俊彦
水戸部七絵
村田峰紀
山口歴
アンセルム・ライル
ラファエル・ローゼンダール

 

文.山口洋三 インディペンデント・キュレーター(オフィスゴンチャロフ)

◇◇

■展覧会名:コレクターズⅢ-Turning the World-

■会期:

■会場:福岡市美術館 2階 特別展示室(福岡市中央区大濠公園1-6)

■開館時間 9:30~17:30(金・土は20:00まで)※最終入場は30分前まで
 休館日 毎週⽉曜⽇(⽉曜が休⽇の場合はその翌平⽇)

 ※10⽉14⽇(⽉・祝)は開館

■観覧料 一般200円(150円)、高大生150円(100円)、小中生無料

 ※( )内は20名以上の団体、満65歳以上の割引料金。 ※身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳の提示者とその介護者1名および特定疾患医療受給者証、特定医療費(指定難病)受給者証、先天性血液凝固因子障害等医療受給者証、小児慢性特定疾病医療受給者証の提示者は観覧無料

https://fukuoka-art-next.jp/fanweek2024/collectors/

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