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「響きあう絵画 宮城県美術館コレクション」展より【学芸員コラム】(その3)洲之内コレクションから《うずら(鳥)と《猫》》

2025/04/13 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 久留米市美術館で5月11日まで開催中の「響きあう絵画 宮城県美術館コレクション カンディンスキー、高橋由一から具体まで」。同館担当学芸員の森智志さんより、展覧会の見どころを寄稿いただきました。

「響きあう絵画 宮城県美術館コレクション」展より(その1)はコチラ
「響きあう絵画 宮城県美術館コレクション」展より(その2)はコチラ

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海老原喜之助《ポアソニエール》1935年
洲之内コレクション 宮城県美術館

 展覧会ポスターのメインビジュアルを飾っている海老原喜之助《ポアソニエール》、意外にも子どもたちからの人気が高い鳥海青児《うずら(鳥)》、そして関連グッズの売り上げNo.1の長谷川潾二郎《猫》。いずれもサイズとしては小ぶりなものばかりですが、思わず足を止めて見入ってしまうこれらの作品群は「洲之内コレクション」と呼ばれており、もともと洲之内徹(1913-1987)という一人の画商の手によって集められたものでした。

 洲之内は、画商でありながら、気に入った絵を人手に渡すことを嫌って自ら愛蔵することもある、一種のコレクター気質を持ち合わせていた人物でした。彼の作品に対する愛情は、『藝術新潮』で連載されたエッセイ「気まぐれ美術館」などに綴られており、これらのテキストと合わせて楽しめるという点でも、「洲之内コレクション」は全国でも他に例を見ないコレクションだといえるでしょう。

鳥海青児《うずら(鳥)》1929年 
洲之内コレクション 宮城県美術館

 洲之内自身が《うずら(鳥)》を紹介した文章は、次の言葉で始まっています「どんな絵がいい絵かと訊かれて、ひと言で答えなければならないとしたら、私はこう答える。―買えなければ盗んでも自分のものにしたくなるような絵なら、間違いなくいい絵である、と。写真家の土門拳さんが鳥海さんの『うづら』(※原文ママ)を画廊へ売りにきたとき、私はまさにそういう気持になった」(洲之内徹『絵の中の散歩』)。

 この作品は、本展出品作の中で最も小さく20.3×26.7cmしかありません。そこに描かれているのは、ほの暗い空間にあおむけで横たわる鳥の死骸。大振りな筆致で描かれた鳥の肉体は、押せば弾力が残っていそうにも見え、しっかりとした重さも感じさせます。そして特徴的なのが、粘りのある油絵具の特性を生かした画肌です。触れたら手についてしまいそうな生々しい質感が、この触覚的な存在感を呼び起こす一つの要因にもなっているのでしょう。

長谷川潾二郎《猫》1966年
洲之内コレクション 宮城県美術館

 《猫》を描いた長谷川潾二郎は、対象が目の前にないと描けないタイプの画家でした。モデルとなったのは、潾二郎の愛猫タロー。画面の中のタローは気持ちよさそうに眠っていますが、潾二郎にいわせれば、猫がこのポーズをとるのは春と秋の2シーズンだけ。画家はタローが同じポーズになるのを待ち、何年もかけて作品を描きましたが、ヒゲを描かれぬままタローが老いて亡くなってしまいました。その後、生前のデッサンをもとにして、ヒゲが片方だけ描き足されました。

 潾二郎は、実物を目の前に置かないと描けない画家でしたが、見たものをそのままそっくり画面に再現していたわけではありません。実際、《猫》も毛並みこそ細密に描き込まれていますが、その表情は大きくデフォルメされています。そして、洲之内が回想するところによると、潾二郎の静物画によく現れる白磁の壺は、瀬戸物の瓶だったといいます。潾二郎が実物を前にして描くことにこだわったのは、対象をリアルに描くためというよりも、画家と対象との間に流れる時間や空間を含めて描きたかったからなのかもしれません。

(久留米市美術館学芸員・森智志)

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