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【コラム】没後5年 リレーで「菊畑茂久馬」展 福岡市美術館など全国19施設 次世代へつなぐ再評価が始動

2025/10/23 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 福岡市の画家、菊畑茂久馬(もくま)さんの没後5年を迎えた今年、全国の美術館がリレー形式で所蔵作品を展示している。長男の拓馬さん(64)らが企画した「LINKS(リンクス)―菊畑茂久馬」の一環で、福岡市美術館や東京国立近代美術館など19館が参加した。国内外の美術界に一目置かれても福岡にとどまり、自分だけの表現を追求した菊畑さん。その仕事をどう評価し受け継いでいくか。スタートを切る仕掛けでもある。 (川口安子)

 「5年というのは中途半端だが、10年では間に合わない」。菊畑茂久馬美術青家協会代表でもある拓馬さんは、今企画がこのタイミングになった理由を明かす。「各美術館で父を担当した学芸員が引退し始めており、このままでは所蔵していても『誰?』となる」。展示の呼びかけは、蓄積のある学芸員がいるうちに次世代へつなぐ狙いもある。

 福岡市美術館で9月に始まった「菊畑茂久馬展」は、2月に任用されたばかりの花田珠可子(みかこ)学芸員(27)が担当した。日本画が専門の花田さんにとって「今まで触れてこなかった分野」。過去の展覧会図録を読むことから準備を始めた。

 「反芸術」を掲げた美術集団「九州派」の主要メンバーとしてアスファルトなど身近な材料を用いた前衛美術、日本ポップアートの先駆けとして国外でも注目された「ルーレット」シリーズ、独特の絵肌の大型絵画…。作風の振れ幅に驚きつつ、花田さんは「“もの”から平面へ」という流れに着目し、画業全体を見渡す2章24点を構成した。

長らく所在不明だった「ルーレット(ターゲット)」(中央、福岡県立美術館蔵)
などシリーズ3点が並ぶのは貴重だ

 作者の死は、批評の新たな出発点でもある。今月5日に同館で開かれたシンポジウムでは、文化研究者の山本浩貴(ひろき)さん(39)とアーティストの原田裕規(ゆうき)さん(36)という、菊畑さんと面識のない2人が登壇した。進行役を務めた「LINKS」企画アドバイザーで同館元学芸員の山口洋三さん(55)は「後世に残すには、若い世代が新しい知見を深めていくことが大事だ」と狙いを語る。

 話題は、菊畑さんが生きた時代と、“もの”から平面へという作風の変遷との関係性についても及んだ。

 炭坑絵師の山本作兵衛や戦争画についての研究執筆に重心を移して美術作品を発表しなかった「沈黙」の70年代について、山口さんは「反芸術の時代が終わって(国家主導の)万博の時代が到来し協力か反対かに二極化する中、どちらにも行けなかった」。山本さんは「作兵衛らを通して『絵画とは何か』を見つめ直しており、執筆と研究は(大型絵画を発表した)80年代に至るための第3のルートだった」と分析した。

 大型絵画も、ドロドロとした絵肌に棒を封じ込めた「天動説 五」(83年)から、サラリと透明度の高い「春風 一」(2010年)へと飛躍した。山本さんは「沈んでいく感じから浮上していくイメージで、地上で格闘していた重力から解き放たれたのではないか」。原田さんは「絵を描きたくても素朴にできない社会状況の中、それでも自分は絵描きだという壮大な旅としての全体像がみてとれる」と初期から晩年にかけてのつながりを指摘した。

「春風 一」(2010年)

 「天動説」という作品名に象徴されるように、3人の語りから、自分という軸を持ち続けた菊畑さんの生きざまが改めて浮かび上がった。混迷を深める時代に、菊畑作品はますます必要とされていくのではないか。

キャンバスに棒が縫い込まれた「天動説 五」(1983年)

※作品写真はいずれも福岡市美術館の「菊畑茂久馬展」

▼きくはた・もくま  1935年長崎市生まれ、44年以降福岡市に住む。独学で絵を描き始め57~62年に前衛美術集団「九州派」で活動。60年代に東京や米国で注目されたが長い沈黙期間に入り、83年に大作「天動説」シリーズで絵画に復帰。著書に「フジタよ眠れ」「反芸術綺談」など。2020年、85歳で死去。

 



◇「LINKS―菊畑茂久馬」 福岡市美術館(11月3日まで)▽田川市美術館(12月7日~来年2月1日)▽長崎県美術館(来年1月16日~4月上旬)▽北九州市立美術館(同1月31日~5月6日)▽太宰府天満宮宝物殿(同2月5日~5月10日)―など。

=(10月22日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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