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【ARTNEコラム|Book】「生きる」に向かう、 痛々しく、美しい日常をまっすぐに見つめる写真集

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アルトネ編集部
2017/04/18
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ARTNE(アルトネ)では、九州・山口各地に目を向け、アート関連の読み物を届ける。【Book】では、アート関連書籍に関するコラムを各地の書き手に寄せてもらう。
今回の書き手は、鹿児島を拠点にアートイベントのPRやマネジメントに携わる四元朝子氏。同じく鹿児島出身の写真家・下薗詠子氏の写真集を取り上げてもらった。(編集部)

下薗 詠子『きずな』 Visual Arts 2010年11月発行

強さと優しさに溢れる写真家 下薗 詠子

写真家・下薗 詠子と初めて会ったのは、鹿児島県いちき串木野市のとある飲食店だった。仕事の関係で撮影の依頼をするため、指定してもらった彼女の実家の近くへと訪ねたときのことである。

下薗 詠子の活動については、ご本人にお会いするずいぶん前に色々な方から話を聞いていた。まだわたしが東京で働いていた時、ライターの友人に、「鹿児島といえばすばらしい写真家がいるから是非会った方がいい」と言われていた。その後わたしが帰郷してから、彼女が鹿児島で開催した展覧会が好評で、わたしの知人数名が作品を購入していたのを知った。

約束の日、待ち合わせ場所で実際にお会いした下薗 詠子は明るく、優しい目でわたしを迎え、写真のことや家族のこと、仕事のこと、鹿児島という土地のことを活き活きと話してくれた。日頃から全てをしっかり観察して考えているのであろう、彼女の口から出てくる言葉は、ひとつひとつにおいてプロとしての意識が高く、地方都市を拠点にしながら世界を見ている人なのだという強い印象を受けたことを鮮烈に覚えている。

 

切り取られた日々から行き着くカタルシス(浄化)

『きずな』より

下薗 詠子は、2010年にVisual Artsフォトアワードで入賞、副賞として写真集『きずな』を出版し、翌年、本書をもって写真界の芥川賞と言われる木村伊兵衛写真賞を受賞した。この写真集は彼女が学生時代から2010年までの約13年間、街で声をかけた人々、友人、そして家族を被写体に、東京、福岡、鹿児島、ラオス、スペインなど様々な土地でライフワークとして撮りためた95枚の写真を、「光の闇」「闇の光」「光と闇」の3つの章で構成したものである。

この写真集を開くとまず、背景となる自然の木々や空、街角や室内の装飾、そして被写体である人々の纏う服―、それぞれの色彩の明るさ、美しさが目に次々と飛び込む。と思えば、モノクロームの写真へと移行し、あざやかな色彩と白黒の世界を行き来し、彼女の色彩感覚に魅了されるのである。そこに写し出されるのは、精一杯の今を生きる表情をする若者たち、晩年の日々をおだやかに過ごす優しい表情の年老いた夫婦(彼女の祖父母たち)など、人々の日常が詰まっており、切りとられた瞬間の連続、そして下薗 詠子が過ごしたであろう時間の経過にひりひりとする感覚を覚える。写真1枚1枚をめくると、自分の経験も重なり、見終えると何かから解放され、強さや優しさを得て、浄化され、救われた気分になった。

本書のタイトル『きずな』は、人と人とを結ぶ「絆」であり、「氣を繋ぐもの」、また、「傷を繋ぐ」ものであるという。この写真集には時を経て生きていくひとにも、自然にも、全てのものに与えられた生命の強さがほとばしっている。そして、誰しもが「生きる」ことにある辛さ、迷い、思い通りにならない苛立ち、日々に溢れた不条理を通過していくのだとも感じる。

 

四元 朝子(よつもと・ともこ)

鹿児島市出身。株式会社ワコールアートセンター/スパイラル広報を経てアヴィニヨン大学編入。RATP(パリ地下鉄公団)デザインチーム リサーチャー、Palais de Tokyo企画制作アシスタント。帰国後、フランスダンス03広報、山口情報芸術センター(YCAM)シアター部門企画制作、スパイラル広報を担当。2013〜2017年春、かごしま文化情報センター(KCIC)の企画制作/広報チーフ。現在は地元のクリエイターやアートプロジェクトの広報活動・コーディネートを行うサンカイ・プロダクションを運営。

http://sankai-pro.com/

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