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釜山現代美術館への期待 福岡と未来志向型の交流を【コラム】

2018/07/27 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

先月15日、釜山広域市が運営する釜山現代美術館がオープンした。福岡国際空港から直行便で行くことのできる金海国際空港、そこから車で南に15分ほど下った乙淑島(ウルスクト)に位置する美術館だ。天然記念物に指定される乙淑島の美しい自然環境の中に、「地域と芸術、そして世界と未来を結ぶこと」を目的に、釜山現代美術館が建設された。「自然・ニューメディア・人間」という主要テーマに沿って、正面の外壁には、フランス出身の植物学者、パトリック・ブラン氏が垂直庭園を施している。自然環境との共生を意識した庭園で、地元で採集される植物が使われた。映像やサウンドアートといった多様なメディア作品の展示に適した、天井の高い展示室となっているのも、特徴の一つだろう。

パトリック・ブラン氏が垂直庭園を外観の壁面に施した釜山現代美術館


館長に任命されたのは、金聖淵(キムソンヨン)氏である。彼は2002年に「代案空間バンディ」を釜山市内に設立し、多様な芸術活動を展開させたことで、国内外にその認知度を高めた映像作家でありキュレーターである。こうした実績を持つ人物をまとめ役として任命したことも、地域に根ざしアートを発信していこうとするこの美術館の本気度を感じさせる。今年9月9日に開幕する、釜山ビエンナーレの専用館としても活用される。なお、敷地面積2万9900平方メートル、延面積1万5312平方メートルという規模は、福岡市美術館を少し上回っている。

スイスで活動するZimounの展覧会「サウンドミニマリズム:Sound-minimalism」会場風景

6月26日、ソウルにある国立現代美術館の館長バルトロメウ・マリ・リバス氏が、記者懇談会で「国立現代美術館中期運営革新計画」を発表した。国立現代美術館は、今後、学術研究とアーカイブの構築を主軸に置いた運営を行うという。それに対して、釜山現代美術館は「今日の美術動向と社会的脈絡に対する研究をもとにした新たな談論を提示する展覧会」を行なっていく方針を打ち出しており、ソウルと釜山の現代美術館が担うそれぞれの役割分担が明確になった感がある。釜山ビエンナーレの企画運営を担い手でもある釜山現代美術館は、同時代の芸術に対する機敏な対応が求められるだろう。

釜山を拠点に活動する韓国人作家チョン・ヘリョンの作品《「'-1'」の風景》

 

館長の金氏は「国際ネットワークとの協力」による地域美術界の力量強化に関心を寄せており、地理的条件とこれまでの交流実績から、特にアジアにおける現代美術のプラットフォームの役割を釜山現代美術館が担っていくことが期待されている。そして、釜山に最も近いアジアこそ九州なのである。私たちが期待せざるを得ないのは、これまで長く築き上げてきた民間での芸術交流、九州と釜山の美術館における連携の広がりと深化である。現在の美術館は、同時代の人たちの共感を呼ぶアートの切り口を模索している。いかに他地域との連携を持ち、多様なネットワークやコミュニティーと共生することができるか。それがひとつの糸口になるだろう。アートの動向を生み出すのは、ひとつの美術館やひとつの地域といった「個」ではない。他の機関や他の地域と結びついた「集団」でなければ、新しいアートのうねりを生み出すことはできないのである。

釜山出身で2015年のヴェネツィア・ビエンナーレに参加したチョン・ジュンホの作品《花畑明図》

アートを担う私たちに求められているのは、いかに「他」と連携するか、そのプロセスと継続力だと思う。そうした意味で、私は、九州と釜山の美術館やアートスペースなどのアート施設によるネットワーク形成を期待している。両地域の距離的利点を活(い)かし、九州と釜山の美術館の学芸員やアート関係者が一堂に集う「場」や研究者交換制度を設け、そこで互いの活動を知り、どのような点で連携し、ともに活動することができるのかを模索する。そうした未来志向型の交流を積極的に行っていくことで、より強靭(きょうじん)なアートの波を、九州と釜山から互いの地域へ、さらには世界に向けて発信していきたい。
(おぐりす・まりこ=九州産業大美術館学芸員)=7月11日西日本新聞朝刊に掲載=

 

小栗栖まり子(おぐりす・まりこ)
九州産業大学美術館 学芸員
1985年生まれ、兵庫県出身。国民大学校(韓国)修了後、2015年から現職。2016年
からart space tetraのメンバーとしても活動。韓国の地域で繰り広げられるア
ートシーンのリサーチや両国でアートプロジェクトの企画を行い、地域とアー
ト、そして美術館の新しい関係性を模索している。おもな企画展=「パリ→池袋→
福岡・モンパルナス -芸術家が街に出る-」(7/29迄開催中)、「歴史にすわる 
part6 -素材で感じるイスの世界-」(2017)ほか。

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