江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2018/11/14 |
日々の営みの中には、無数の隔たりが存在している。例えば「私」と「あなた」の間にも、自然と人類の間にも、猛スピードで発展するテクノロジーとそれを使う人間との間にも。決して埋めきれない距離があるという認識に立った上で、この展覧会は問う。「では、どうするか?」と。
三菱地所アルティアム(福岡市中央区)が企画した九州・沖縄や周辺地域にゆかりのある作家を紹介する展覧会「ローカル・プロスペクツ」。4回目となる今回は「この隔たりを」をテーマに、公募で選ばれた1980年代生まれの3人がそれぞれ向き合い、昇華した作品を展示している。
疑問や違和感を探求する映像作品を制作する寺江圭一朗(37)=広島県出身=は、中国・重慶市で出会ったホームレスの青年との約1年にわたる交流を記録した映像や、青年が描いた絵や後日談を記したテキストなどを展示した。映像作品では、中国語が不完全な寺江が青年の表情や語気から推測して意思の疎通を図り、関係を築いていく様子が続く。言葉だけに頼らず、一緒に作業することを通して距離を縮めていく過程が興味深い。
言葉が通じるからといって、心も通じあえるとは限らない。言葉が通じるがゆえに関係性が複雑になり、食い違いをきたすこともある。2人を隔てる言語の違いが逆に2人をつないでいる。
鹿児島市で活動する木浦奈津子(33)の作品は、油彩の風景画など14点だ。普段の生活で目に留まった景色を写真で切り取り、ドローイングに起こしてから油彩画に仕上げるという過程を課している。
画面の明るさや構図は写真に忠実に描くが、簡潔で勢いのある線描によって作家の心象をそぎ落としている。木浦は「矛盾しているんですけど、自分の絵だけれど、自分から切り離したい」と語る。人物や風景が抽象化され、鑑賞者に「開かれた風景」といえる作品は、向き合った人たちの想像を刺激し、新しい発見や共感を促す。
地元・沖縄の信仰文化を下地にした記録映像や、普天間飛行場移転問題に向き合う過程の記録で展示を構成した吉濱翔(33)は、鑑賞する側に不便を強いる展示をしている。通路のような細長いスペースに、大人が片手で持てるサイズの小型タブレット端末を設置。一度に一人しか流れる映像と向き合うことができない。長文のテキストは、しゃがみ込まないと読めない低さに貼られ、大人数が一度に読むことが難しい。
作品を鑑賞するという行為は、作家と鑑賞者の両者が互いに歩み寄らないと成り立たないことに気付かされる。同時に、内地と沖縄との社会的、政治的な距離感のあり方とも重なっているように思える。
三者三様のアプローチで制作された作品が、企画者が出した問いへの答えであると同時に、鑑賞者への問いとして迫ってくる。「では、あなたはどう考える?」と。作品と向き合い、自分ならばと立ち止まって考えてみたい。それは社会的、文化的、あるいは政治的な隔たりの向こう側に存在する他者に意識を向け、常に更新され続ける今日的な課題に結びついてゆく想像力の端緒となる。
(佐々木直樹)=11月9日 西日本新聞朝刊に掲載=
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