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進化続ける「タナパー」 建物と都市 ペン1本で解体 熊大教授田中智之さん 熊本市現美で「解体新書展」【コラム】

2019/10/11 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

青ペンで精密に描き込んだパース(建築や都市計画の完成予想図)を目の前にすれば、誰もがじっと見つめずにいられないだろう。描いたのは、熊本大教授の田中智之さん(48)=建築学。ビル群や建物の外壁を透視し、複雑な都市空間の構造や、建物内の多様な機能、そこでなされる体験までを1枚の紙上に現出させる独自の描画法は、一般的なパースの域を超えている。その離れ業は、母校・早稲田大の後輩から敬意を込めて「タナパー」(田中さんのパース)と呼ばれるまでになった。

青ペン1本で建築や都市を「解体」してみせる熊本大教授の田中智之さん


建築の公募プロポーザルや雑誌企画のために描いたパースを「解体新書展」として熊本市現代美術館で公開している。
圧倒されるのは、空から見下ろした視点で東京の新宿駅、渋谷駅、東京駅を「解体」して見せた大作だ。高層ビルに囲まれ、在来線や地下鉄が何本も乗り入れる巨大な交通ターミナルの様相を、地下空間のつながりまで含めて奥の奥まで見通している。ビルや地表はときに透明に描き、建物の位置関係や構造が手に取るように分かる。

パースは、建物や都市景観、インテリアの完成予想を示す。1点透視、2点透視などの図法に従い、3次元の世界を2次元化する作業だ。CG(コンピューターグラフィックス)で作成することもある。
「新しいことをやろうと、狙ったわけではないんですけどね」。田中さんは苦笑いする。
タナパー誕生のきっかけは、2000年に担当したある村役場の新庁舎設計案だ。提出締め切り直前に、用意していたCGのパースを手描きに差し替える必要が生じ、約3時間で描き上げた。時間が限られる中、風景との調和を狙った全体の構成や、複数の用途の空間から成ることなど、強調したいポイントを1枚に盛り込んだ。

これが評判を呼んだのか、03年からインテリア雑誌で、建築家による建築作品を図解する連載が始まる。らせん階段が特徴的な村野藤吾(1891~1984)の日生劇場では、昇降の際に頭上に迫るらせん階段を実際より膨らませて描くことで、現地を訪れたときに感じる迫力をも平面に落とし込んだ。
「遠近法をねじ伏せる表現」と田中さんは説明する。平面に手描きで、どこまでの表現が可能かを追い求め、タナパーは進化を続けてきた。
今では初対面の人に「タナパーの方ですよね」と聞かれるほど浸透した。
なぜ支持を集めるのか。田中さんは自己分析する。
「インターネットでは情報に対して受け身になる。複雑な地図やこうしたパースは、眺めて何かを見つける、情報に積極的になれる楽しみがあるのではないでしょうか」

渋谷駅のパース「渋谷駅解体」



昨年春、本を出した。「建築の森・熊本を歩く」。熊本城から近代建築、公共建築に至るまで、熊本県内70件の多彩な建築をタナパーの手法で描き、特徴を読み解いた。熊本城を中心に、新しい商業地域や古くからの市街地が混在するまちを、樹木や植物が共生しつつ全体の秩序が保たれる「森」になぞらえた。
都市は日々、姿を変える。気付かないような小さな変化も、積み重なれば大きな変貌になる。建築の精密な構造や周囲との関係性まで描き切るタナパーは、写真や図面とは別種の記録的価値を持つ。

例えば、今「天神ビッグバン」と銘打った大規模な再開発が進む福岡市。猛スピードで変わろうとしているこの九州一の都市を、いつかタナパーの手法で解体するのも面白いと考えている。(諏訪部真)=10月2日西日本新聞朝刊に掲載=

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