福岡アジア美術館 開館20周年記念展
「アジア美術、100年の旅」
2019/10/05(土) 〜 2019/11/26(火)
09:30 〜 18:00
福岡アジア美術館
2019/10/25 |
アジアの近現代美術を専門に紹介する世界唯一の美術館として開館した「福岡アジア美術館」(福岡市博多区)が、開館20周年記念展覧会を開催している。各地に飛び込み、作品の収集や研究、交流を重ねてきた学芸員たちが、収蔵品の中から「アジア美術の100年間をたどる」との触れ込みで厳選した展示作品を紹介しながら、20年の歩みを振り返る。
本展は会場構成を「東アジア」「東南アジア」「南アジア」「アジアのなかの福岡」の四つに分けており、自由に見て回れるようになっている。それぞれの地域では、20世紀初頭から今日までの緩やかな美術の流れを概観でき、その土地ならではの文化や風景、人間の営みなどを、美術を通して見ることができる。
「東アジア」の会場に入ると、魅惑的なまなざしを投げかける美女たちが描かれた「中国商業ポスター」が壁一面を覆っている。華やかなチャイナ・ドレスを身にまとい、親密に体を寄り添わせる彼女たちのまわりに描かれているのは、薬の瓶や、煙草(たばこ)、洋酒などの舶来品だ。
中華民国が1912年に建国されると、自由都市・上海や英領・香港などの大都市では近代化が進み、資本主義が定着していった。この時代に人気を博したのが西洋から導入したリトグラフの印刷技術を用いた商業ポスターであった。
当初は、煙草会社などが自社商品の宣伝のためにカレンダー付きで制作・配布していたが、人気が出るに従ってモダンガールのイメージを前面に押し出した鑑賞用ポスターとしても販売された。ポスターの奥で微笑するモダンガールは当時の男性たちを魅了し、都市の女性たちの憧れとなった。まさに都市で生まれた大衆文化の象徴であり、中国の新時代の到来を予感させるものであった。
ポスターの作者であるハン・ジーイン(杭穉英)は、中国浙江省の出身で、13歳で上海の商務印書館図画部に入りドイツ人教師に装丁などのデザインや西洋絵画を学ぶ。中国における商業美術の普及に貢献したパイオニアの一人であり、当時最も人気を博していた絵師であった。
華やかで新時代の到来を予感させる「中国商業ポスター」の作品群の隣には、ウ・ティエンチャン(呉天章)の《春宵夢Ⅳ》(1997年)を展示している。ウ・ティエンチャンは台湾に生まれ、現在も国際的に活躍する台湾現代美術の代表作家のひとりだ。
暗い部屋のなかには、サングラスを掛けた怪しげなポーズをとるチャイナ・ドレスを着た少女の絵画が、ポツンと掛けられている。絵の前にある床のボタンを踏むと、日本の歌謡曲が原歌の50年代の流行歌「幸福な船出」が突如として流れ始め、曲に合わせて額縁の電飾がリズミカルに明滅し、絵の中の少女の像が現れては消える。戦前戦後の写真館で撮られたレトロな写真を下敷きに描かれた絵画は、50年代の台湾の下町を連想させる流行歌とあいまって郷愁を誘うだろう。
<カモメよ、カモメ>と日本語が混じるチェン・フェンラン(陳芬蘭)の歌声が戦前の日本統治時代の名残を、<胸の高鳴る、いざ幸福の船出>の歌詞が戦後の新しい時代のスタートを偲ばせる。ノスタルジックな絵画と電飾や音楽に満ちた空間は一瞬の間、わたしたちを実像と虚像が入り交じる遠い過去へ誘う。
「チャイナ・ドレスを着た女性像」という共通点を持つふたつの作品は、時代や社会背景によって作品の持つ意味が異なる。中国商業ポスターは民衆に愛された大衆芸術作品として新時代への期待感を、《春宵夢Ⅳ》はマルチメディアの手法を使い、台湾の歴史を現代美術作品として蘇らせた。似ているようで対照的な手法で表現されたふたつの作品を会場でご覧いただきたい。
(趙 純恵 福岡アジア美術館学芸員)
▼ウ・ティエンチャン(呉天章)[台湾]《春宵夢Ⅳ》1997年
▼ハン・ジーイン/ジーイン画室(杭穉英/穉英画室)[中国]《五洲大薬房ポスター》1920-30年代=いずれも福岡アジア美術館蔵
=10月16日西日本新聞朝刊に掲載=
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