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「絵本ミュージアム」空間ディレクター岡さんに聞く、会場づくりの制作秘話【インタビュー】

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木下貴子
2017/08/18
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福岡アジア美術館の夏恒例の展覧会「NTT西日本スペシャル おいでよ!絵本ミュージアム」が今年で丸10年を迎えた。親子連れをはじめ、多くのファンに長らく支持されてきたのは、その絵本の世界に入り込んだような体験ができる空間構成による力が大きいだろう。「絵本ミュージアム」の空間づくりについて、「絵本ミュージアム」の空間ディレクター・岡大輔さんにお話をうかがった。

 

―岡さんは1回目の「絵本ミュージアム」から会場制作を何度も担当されていますが、最初の2007年は試行錯誤だったのではないでしょうか?

岡:1年目をどうするかで「絵本ミュージアム」の方向性が決まったのはあると思います。それまでは絵本の展覧会というと原画を展示するか、グラフィックを拡大して展示するものがほとんどでした。でも僕らが2007年の展覧会をやることが決まって考えたのは、そのような展示方法ではありませんでした。とにかく絵本で一番伝えたいことを空間で表そうとしました。絵本はあくまでも2次元で、その2次元に作家が思いを込めて描いたものが非常に大事ですから、そのまま3次元にすることは不可能です。じゃあ絵本の何が一番面白いのか、どこがワクワクするのかを空間で再現しよう、となりました。そこで考えたのが、巨大なアリのオブジェです。

 

2007年の1回展の様子。会場に入って最初の部屋に、巨大なアリのオブジェを展示した。

岡:なぜ絵本が面白いかというと、スケールがあまり関係ない。読み手は、虫の目になったり巨人の目になったり、絵本の世界に入ると自由になれる。特に子どもは不思議に思わないんです。アリと一緒に冒険してもそれが現実と違うとか考えず、ただワクワクする。そのスケールこそが面白いんじゃないかというのを表現しました。

今年の『ぐるんぱのようちえん』の部屋。

―『すてきな三にんぐみ』の部屋もスケールが大きく感じました。

岡:あの部屋は、ストーリーをたどるようになっているんですよ。実は僕、『すてきな三にんぐみ』が大好きで、この絵本を扱うこと自体がすごく楽しかったです。スクリーンの前に影絵を出して、子どもたちも入りこんで三にんぐみと一緒に出かけていくような設定にしました。

今年の『すてきな三にんぐみ』の部屋より。
トンネルに入ると影絵になって、三にんぐみの仲間入りになる仕掛け。

―親子で楽しめる展覧会ですが、やはり子どもたちを意識しているのでしょうか。

岡:空間づくりで僕がこだわっているのは、「絵本の世界に入り込むための空間」です。読み聞かせをするときって親は子どもの隣にきたり、子どもを膝に座らせたりとかしますよね。僕はこれこそが「最小限の絵本の空間」だと思っていて、その囲われたような空間が大事だなと。だから会場を作るときもただ平面的に区切るのではなくて、L字型にしたりして、親子で一緒に囲まれているような空間に入るというのをなんとなく意識しています。

今年の展示風景より「○△□の森」(写真左側)。スクリーンに映っているのは参加型の作品「みんなでつくろう天の川」。

―この10年で感じたことは?

とにかく絵本はすごい、と。作家さんの絵本を扱わせてもらうので、原画を間近にみる機会が多く、場合によっては拡大してみたりすることもあるんですが、やっぱり一枚の絵に懸けられるエネルギーはすごいなと。拡大したとしてもぜんぜん密度が薄まらない。絵本のすごさが改めてわかりました。また、10年を経過したいま新しい絵本の可能性を感じています。1回展の時に5歳だったうちの娘が、去年の10回展の時には15歳。中学3年生になったんですね。それもあって、中高生になった子どもたちも楽しめるような「絵本ミュージアムスクール」という中高生向けのプログラムを共同で企画しました。一度絵本から離れた年代の子どもたちが、作家に会ったり、ボランティアとして関わったり、違う視点から絵本の魅力に触れることで、絵本との新しいつきあいが始まるんじゃないでしょうか。

 

―2007年の展示コンセプトの一つに、子どもたちがアートに触れるきっかけにとありましたが、その考えはいまもありますか?

岡:ありますよ。今年の会場の後半部分がそれに当てはまります。具体的な絵本がテーマにあるわけではなく、でも絵本的なテーマで空間を作りました。ただ、ここで美術に触れてもらうというよりも、美術館でやるというのが非常に重要だと思っています。絵本ってあくまでも大衆向けの印刷物であって、美術として認められていないのが現実です。ですから僕自身、美術館できちんと絵本をアートとして見せたい、見せ方も含めてなんとかアートにしたいなというのがあります。そのうえで、子どもたちにとって「絵本ミュージアム」が、初めて美術館にきて触れたアートとして一番わかりやすい、親しみやすいものになればいいなと思いますね。

岡 大輔(おか だいすけ)

環境デザイナー。株式会社環境デザイン機構取締役。環境デザイン機構として「絵本ミュージアム」の空間構成に2007年、2008年、2010年、2012年、2014年の展覧会に携わる。昨年2016年より「絵本ミュージアム」の空間ディレクターを務める。子どもの頃に大好きだった絵本『くいしんぼうあおむしくん』。

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