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天草陶石で表現する“神聖なる豆腐”の世界/陶芸作家・髙木健多さんに聞く【インタビュー】

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西山 健太郎
2018/02/21
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昨年9月にホテルオークラ福岡で開催された九州最大のギャラリーショー「アートフェアアジア福岡2017」。その関連企画として開催された新人作家発掘を目的とする公募展「AFAF AWARDS 2017」において、最も多くの観客、そしてギャラリーから評価を受けた作家、髙木健多さん。今回は髙木さんへのインタビューを通して、その個性的な作風や制作にかける思いをアルトネ読者の皆さんにお届けします。

――「AFAF AWARDS 2017」では、会場となったホテルオークラ福岡の一室に14名の作家さんの作品が並びましたが、その中でもとりわけ髙木さんの作品は異彩を放っていたと思います。形作られているのは日本人なら誰もが知っている“豆腐”なのですが、それが白磁で出来ているという点が非常に斬新でした。

髙木健多(以下髙木): 素材は天草原産の天草陶石です。原石は刃物を研ぐ砥石の原料となりますが、粉砕・加水して鉄などの余分な成分を除くと粒子の細かい白色の粘土となります。天草陶石は極めて良質な陶磁器の原料として知られており、古くから有田や波佐見などの陶磁器の産地へ運ばれていました。

私はその天草陶石を使った“豆腐”を作ってきましたが、こうした美術の公募展に応募するのは初めてで、他の作家さんの作品の中に自分の“豆腐”があるのは何だか場違いな気がしていました。そうしたなか、観客の皆さまやギャラリーの方々から高い評価をいただき、驚きとともに、これまで自分が続けてきたことに対しての自信や手ごたえを感じることができました。

「AFAF AWARDS 2017」出展作品 
 作品名:豆腐[to-fu]

――「AFAF AWARDS 2017」に出展された作家さんのほとんどは大学や専門学校で本格的に美術を学んだ方々でしたが、髙木さんはそうした経歴をお持ちではないんですよね?

髙木:おっしゃるとおり、私は美術家・アーティストではなく陶芸作家です。高校卒業後、デザインの専門学校に進学したのですが、自分が進むべき道を定めることができずにフラフラしていた時期がありまして、そのとき高校時代の同級生が、実家天草の窯元で働かないかと声をかけてくれたのです。そこで5年ほど働かせていただき、いまは熊本県合志市で制作を行っています。

 

――どうしたきっかけで“豆腐”を作るようになったのですか?

髙木:窯元で働かせてもらうようになって、最も興味を持ったのが天草陶石の「白」の美しさでした。仕事の合間に遊び感覚で何気なく土をこねているうちに、この美しさを最⼤限に表現できる題材は“⾖腐”しかない、という考えに至りました。以来10年間にわたり、絶えず豆腐を意識しています。冷蔵庫に豆腐を欠かしたことは一日たりともありません。(笑)

作品名:⾖腐[to-fu]
より近くで見ると、そのリアルな質感に驚かされる。

――近年制作された“豆腐”には鎹(かすがい)が打ってありますね。これは非日常的ないしは非常識なことが、日常的に、そしてさも常識的なことのように行われている現代社会を揶揄しているととらえたのですが、いかがでしょうか?

髙木:そうした意図は全くありませんでしたが、そんな見方も面白いですね。(笑)

「豆腐に鎹」ということわざがあります。「糠(ぬか)に釘」とか「暖簾(のれん)に腕押し」などと同じ意味で、物質そのものの強度と用途の矛盾を示すもので「やっても無駄」という、どちらかと言うとネガティブな意味があります。ただ、私の『鎹⾖腐』は割れたり歪んだりしている豆腐に鎹が打たれて形が繋ぎ留められている。つまり、矛盾が矛盾とならずに、劇的な効果を生んでいるという点でポジティブな、さらには神がかり的なイメージが生まれていると思います。ことわざの「猫に小判」が具現化され、縁起物の招き猫として広まったのと同じような形でとらえていただけたらと思います。

 

――実に面白い視点ですね。

髙木:それに、豆腐や鎹にまつわる歴史や逸話を調べてみたところ、興味深い点がいくつもありました。

まず、豆腐は中国から伝わってきたものですが、生食の文化は日本発祥とされ、きれいな水や衛生的な製造環境が整っていて初めてできる食べ方です。しかも日本各地に地域性あふれる豆腐や豆腐料理があり、日本人の生活や文化と密接に関わっています。

また、鎹についてですが、器の補修方法として「鎹継(つ)ぎ」という手法があります。割れた器をホッチキスのように鎹で留める手法で、中国では一般的な補修方法でしたが、それが日本に移入されたとき、一つの美的表現、すなわち器に趣を与えるものとして茶人などに評価されるようになります。鎹継ぎが施された器で最も有名なのは「馬蝗絆(ばこうはん)」という青磁の茶碗ですが、これは国宝に指定されています。鎹に美を見出せるというのは、日本人の豊かな想像力と感性の賜物だと思います。

その二つを掛け合わせるところに、『鎹豆腐』という作品の大きな意味を感じています。

作品名:鎹豆腐

――作品の制作にあたって、大切にしていることはありますか?

髙木:一番大切にしていることは「素材との対話」です。デザイン学校時代、見た目に重きを置くがために素材本来の良さを台無しにしてしまっている事例がたくさんあることに気づきました。極端な例を挙げるなら、県道や国道沿いに建つ大型パチンコ店。それらの建築素材は鉄やコンクリートですが、表面に手を加えて、さも大理石の建物であるかのようなデザインにしていたりします。鉄やコンクリートの素材ならではの良さを引き出すということを初めから考えていないんですね。そうした経験も踏まえ、“豆腐”という形を使って天草陶石の素晴らしさをどれだけ引き出せるか。まさにそれこそが、私が一生をかけて取り組みたいと思っているテーマです。

――それでは少し話題を変えて、髙木さんの子供時代のエピソードを教えていただけたらと思います。

髙木:一人で物静かに過ごすことが多かったと思います。姉が二人いまして、家庭内ではいろいろな意味で二人の存在感が大きかったので。(笑)

上の姉は服飾デザイナー志望で、家の中の至るところにファッション雑誌がありました。中学、高校という多感な時期に、雑誌を通してとはいえ、ファッションやデザインの世界に触れたのは大きかったと思います。高校卒業後にデザイン専門学校に進学した契機になったと思いますし、現在の私の美意識や美的感覚が培われたのはその頃だったのではないでしょうか。

 

――ご両親やお姉さんは髙木さんの作品について、どのようにおっしゃっていますか。

髙木:「面白いね」とは言ってくれますが、二言目には「食べていくためには、ちゃんと食器を作りなさい」となりますね。しかし、今扱っている磁器土は、少なくとも僕にとって料理とリンクしにくい。もっと質感の柔らかな山土の方が料理を盛り付けたときに美味しそうに見えるような気がしています。

このような作風なので、周りから「変人」扱いされることも少なくありませんが(笑)、これからも周りの人たちの評価や常識にとらわれることなく、自らの信念を貫いていきたいですね。

 

――最後に髙木さんの今後の抱負をお聞かせいただけたらと思います。

髙木:“豆腐”の神々しさを極限まで追求していきたいと思っています。天草陶石、そして豆腐のことを調べれば調べるほど、その二つには「神聖さ」という大きな共通点があると感じます。何十年後になるかはわかりませんが、日本中の家庭の神棚に私の“豆腐”が供えられるようになれば素敵だなと思います。(笑)

 

――今後これから髙木さんの“豆腐”がどのように進化していくのか、非常に楽しみです。本日は興味深いお話を聞かせていただきありがとうございました。

 

髙木 健多(たかき けんた)

1986年 熊本県生まれ
2007年 福岡デザイン専門学校 修了
熊本天草の窯元にて修行開始
2009年 天草大陶磁器展にてグランプリ受賞
2010年 天草大陶磁器展にて審査員特別賞(鯉江良二賞)受賞
2014 年 熊本県合志市にて築窯
2017 年 熊本市「tetorigarden」にて個展
AFAF AWARDS 2017にて6つのギャラリー賞及び観客賞受賞
ArtKAOHSIUNG 2017/Gallery MORYTA
ART FAIR SAPPORO 2017/Gallery MORYTA

 

【ART FAIR ASIAFUKUOKA 2018開催決定】
会期:2018年 9月8日(土) ~ 9月9日(日)
※ 9/7(金)は招待客・プレス内覧会
会場:ホテルオークラ福岡 9階 福岡市博多区下川端町3−2
http://www.artfair.asia/

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