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建築家・葉祥栄氏の展覧会 故郷・熊本で開催中。「九州大学葉祥栄アーカイブ」の資料群から学生が紡ぎ出す、新しい展示のあり方

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アルトネ編集部
2026/02/09
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 今年1月8日に逝去が報じられた戦後九州を代表する建築家・葉祥栄氏(1940-2026)。現在、熊本市現代美術館 井手宣通記念ギャラリーで「九州大学葉祥栄アーカイブ」を紐解き、主要作品を紹介する展覧会「Revisiting Shoei Yoh 葉祥栄再訪  熊本展 」が開催されています(3月9日まで)。
 葉祥栄さんの故郷・熊本開催となる同展について、その企画・設営を担った九州大学大学院芸術工学府 岩元真明准教授と同学府修士1年の野川瑛統さん、濱高志帆さん、濱田凌さんに話を伺いました。

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――今回の展覧会の展示物はそのほとんどが「九州大学葉祥栄アーカイブ」の資料群と伺っています。同アーカイブについてお聞かせください。また、どのようにして展覧会を開催するということになったのでしょうか。

YASHIRO PHOTO OFFICE

岩元:
 熊本に生まれ、福岡を拠点に活動した建築家・葉祥栄さんより、2019年、九州大学が図面や模型、写真、書籍等の資料一式の寄託を受けたことにはじまります。
 大学では資料の整理を進めるとともに、2023年から、修士1年生がアーカイブ資料に触れて展覧会を企画し、公開するという教育研究活動を行っており、今年も10名強の学生が参加しています。これまで2024年に福岡と東京で、2025年は葉さんの代表作のひとつ「小国ドーム(小国町民体育館)」がある小国(熊本県)で展覧会を開催しました。今年は葉さんの故郷である熊本市内、熊本市現代美術館で本展を開催することになりました。

展覧会設営時。
展示物のセレクションから設営までを修士1年の学生が担当した

――展覧会の企画から設営まで、学生のみなさんが手がけられたと聞いています。どのような体制、スケジュールで展覧会が作られていったのでしょうか。
濱田:

 自分たちで展覧会の企画をしようと集中的に調査をはじめたのは、昨年の12月からで約3ヵ月です。葉祥栄アーカイブではこれまでも継続して研究・調査活動が行われていました。その結果を引継ぎつつ、「熊本展」ではどんなアーカイブ資料を選定し扱っていけば、展示を面白くできるのか探っていったというのがはじまりです。


野川:
 まずは2カ月間、膨大な量の資料に洗いざらい目を通し、どういったものが保管されているのかを確認していきました。何を展示していくのかを探っていくことに時間と労力をかけ作業を進めていく中で、展示のテーマや課題も見つけていきました。

――展示品のセレクトはどのように行われたんでしょうか。規準やポイントがありましたらお教えください。あわせて、展示構成やテーマについてもお聞かせください。
濱田:

 今回は熊本が会場ということから、熊本県内のプロジェクトを見せようということがはじめに決まりました。
 今回の展覧会では、「光の建築」「木構造の挑戦」「自然との対話」という3つのパートで葉祥栄さんの作品を紹介しているのですが、はじめの2つのテーマについては、過去の展覧会でも取り上げられていたことから、どのような資料があるか、ある程度蓄積がありました。それら過去の展覧会の経験を引継ぎつつ、これまでとは違うものを展示しようという方針でした。
 「自然との対話」のパートは、今回新しく考えたテーマです。共通点のある作品を分析し、その資料を探し、まとめていったかたちです。実際には、テーマ毎にグループに分かれて、調べながら深堀していくという方法で進めていきました。

――膨大な数のアーカイブをひたすらに「掘る」という作業だったようですね。コレクションの特徴等ありましたらお教えください。
岩元:

 「九州大学葉祥栄アーカイブ」の元となっているのは、葉デザイン事務所という設計事務所が持っていた資料です。模型だけで200点以上、写真だけでも3万点以上の数があります。図面の数はさらに多い。

野川:
 写真に関しては選びきれないぐらいの量がありますし、模型もきちんとした状態で残っているものが多い。書籍も多く、海外の出版物等も含め、葉祥栄さんの作品が掲載された本や雑誌に加え、ご本人が集めていた本までが揃っています。どの時期にどういったことをされていたのかを体系的に知ると同時に、今回の展示のテーマを決める上でもとても参考になりました。

――膨大な一次資料を手にとって確かめることができるというのも贅沢な経験ですが、建築の場合、実際に見に行くことができる、その空間を体感することができるというのも、大きな楽しみであり魅力のひとつだと思います。実際に建築を見に行かれたりもしたのでしょうか。

三角の「海のピラミッド」が写し出された本展のポスター

濱高:
 私は三角半島(熊本県)の展望施設「海のピラミッド」(三角港フェリーターミナル)に行ったことが強く印象に残っています。図面や模型を見るよりも先に現地を訪れたのですが、実際、二重螺旋の構造体を目の前にして、中に入ることもでき、とても楽しくて素敵な建築だと実感しました。  
 その後、葉祥栄アーカイブの資料や模型に触れることで、設計の際には巻貝のかたちや構造を参照していたという背景等を知り、学んでいけたということはとても大切な経験になりました。





野川:
 自分も建築は沢山見に行っています。
 熊本市現代美術館のすぐ側、上通アーケードにある「パビリオン」も、今回初めて行くことができました。葉祥栄さんのご親戚が営まれている「紅蘭亭」と洋菓子店「SWISS」といった店舗が並ぶモールのような空間ですが、図面や写真で見た特徴が、竣工当時の状態のまま残されていたり、逆に、当時とは違う使われ方をしていたりというのを目の当たりにすることができました。ところどころかたちを変えながら、今も愛されて使われ続けてるということに感動しました。

上通アーケード沿い「パビリオン」内にある「紅蘭亭」は葉祥栄さんの親戚が経営するレストラン。写真は設営日の食事風景

――展示についてお聞かせください。3つのテーマをわかりやすく、模型や図面、プロダクトデザインや映像等の様々な展示物を美しく並べ、紹介しているのが印象的でした。工夫されたことや感じたことがありましたらお聞かせください。

YASHIRO PHOTO OFFICE

濱高:
 壁には図面や紹介パネル等の平面が並ぶ中、展示室の中央に大きなテーブルを置き、熊本県内のプロジェクトの模型やプロダクトデザイン等を、年代ごとにまとめて展示しています。
 色んなパターンを検討した中で決めた展示方法で、実際に、大学で同じ大きさのテーブルを作り、シュミレーションも行いました。テーブルの周りをめぐりながら、じっくりと模型や様々な資料を見ることができる。会場で確かめ、上手くいったなと感じています。




野川:
 会場に行って思ったのは、光の環境が美しいことでした。
 大きな窓が2つ並ぶ本当に明るい会場の中、模型が光に照らされて、構造をうつし出す影が落ちる。建築のデザインを考えていかれる中で、「光」を追い求めてきた葉祥栄さん、その方の展示会場であのような光が生まれたこと、ドラマチックな環境にすごく感動しましたし、模型や図面といったすべてが際立って見えました。
 そして、資料群を見ていく中で、建築だけでなく、サイン類やフォントのデザイン等、細部まで緻密にデザインされていることに気づかされました。そうした葉さんの細部へのこだわりが伝わるよう、展示品のセレクトを工夫しています。

濱田:
 今回の展示では、時計や照明等のプロダクトデザインも展示していますし、色々なところに葉祥栄さんの様々なエッセンスがちりばめられています。その一方、本当にギリギリまで展示するものを固められなかった部分もあります。インストールのその日に、葉さんのご親戚の方が、プロダクトデザインの作品を実際に持ってきてくださって、お借りして展示するということもありました。

葉さんのご親戚が持参くださったという洋菓子店「SWISS」のチョコレート箱も葉祥栄さんのデザイン

――地元開催ならではの展示物もあったんですね。その他にも、故郷開催ということで意図したことや、エピソード等はありましたか。

野川:
 人と建築の関わり方がちゃんと見えてくるような展示にしたいという気持ちがありました。アーカイブの資料の中には、地元の人が本当に楽しそうに建築を使っている写真や、葉さんが出来たばかりの建築の前で笑ってる写真等が沢山あります。会場に来てくださるみなさんも、展示物と写真を撮ったり、楽しそうにされているのが印象的で、改めて愛されているんだなというのが伝わってきたことも個人的にはうれしかったです。

濱高:
 同じですね。地元の人たちの記憶に残っているものや、現在も使われている建築、そして、地元の人とのつながりや温かさのようなものが感じられる作品を展示したいと思っていました。また、熊本市の中心にある美術館での展示ということで、建築の専門家や建築を学ぶ学生だけでなく、地元の方で、今回の展示で紹介する建築に慣れ親しんだ方が見てくださるということを常に意識していました。

岩元:
 熊本市現代美術館のパーマネントコレクションで、祥栄さんのご兄弟である葉祥明さんの水彩画を展示することができました。会場にもご家族が来てくださったり、オープニングを記念して甥っ子さんはサックス演奏もしてくださいましたよね。

野川:
 葉さんのご家族は、本当にみなさん、多才で驚きました。祥栄さん自身もデザイナーであり、建築家であり、領域を越え横断的に活動されていた方ですし、センスというか眼のもの凄さ、美しいものを美しいと捉える感性――そういった才能も環境の中で磨かれていったのかな、と思いました。

――本展でこんなところを見て欲しい、こだわりポイントや伝えたいことをお教えください。

――どんな展示品があると面白いか最初の2カ月間かけて一生懸命探求した中で、それぞれ「推しのアイテム」であったり、これ見つけて欲しいという展示品があったら聞かせて欲しいです。(岩元)

濱高:
 私がポスターで使われた写真を見つけました!
 先ほどお話しした三角の「海のピラミッド」のとても小さな写真だったんですが、拡大して見たときに、船がちょうどこちらにやってきているところだったんです! 現在はもうフェリーは運航していないのですが、この写真にはかつてはフェリーの停留所だったことが残っている。そういうところもすごく素敵だなと思っています。

野川:
 2024年に福岡アジア美術館で行われた葉祥栄さんの講演会の映像が、何度見ても、一番好きです。今年の1月にお亡くなりになられた葉祥栄さんが自身の声で元気に語られているというのも感動的なのですが、長らく光を追い求めてきたことを語りながら、あの話にはほんとうの続きがあるというか――今回の展示でぜひみんなに見て欲しいと思っています。ほんとうに大好きな映像です。

福岡アジア美術館で行われた葉祥栄さんの講演会の映像(2024年)、「熊本県野外劇場アスペクタ」(写真右)が並ぶ展示風景
YASHIRO PHOTO OFFICE

濱田:
 僕もあの映像がすごくいいなと思いながら、あえて「熊本県野外劇場アスペクタ」を挙げます。葉祥栄さんの作品の中では比較的知られていないかもしれませんが、今回の展示で自分が担当し、一番内容を深く知り、勉強にもなった作品です。
 葉祥栄さんご自身が気に入っていたのだろうな、と思われる構図や画角の建築写真を、アーカイブの中から見つけ出すことができたというのが、個人的にすごく良かったです。建築そのもの自体がバーンと映り込んだ綺麗な写真というのではなく、人が写っていたり、ちょっと別のベクトルから建築を捉えたような、決してネットでは出てこないような、印象的な写真です。他の写真よりも丁寧にしまわれていたり、何枚も複写されていたりとアーカイブ内での保管状況から‟特別な感じ”を発見することができました。今回の展示の中ではほんの一部ですが、注目して見てもらえるとうれしいです。

インタビューに応じてくれた野川瑛統さん、濱高志帆さん、濱田凌さん

_________________

 「九州大学葉祥栄アーカイブ」が残し、伝えるもの。そこから新しく生まれた展覧会「Revisiting Shoei Yoh 葉祥栄再訪 」。今後もメンバーを代えながら同プロジェクトは引き継がれていくといいます。
 アーカイブという土壌を耕し、資料に触れることで個人に撒かれた種が、展覧会というかたちで結実、花ひらいている本展の開催は3月9日(月)まで。2月22日(日)には、関連トークイベント「アーカイブ・展覧会・建築教育」も開催予定です。

詳細等公式HPをご確認の上、ご来場ください。
 

Revisiting Shoei Yoh
葉祥栄再訪 熊本展

日時:2026年1月18日(日) 〜 2026年3月9日(月)
   10:00 〜 20:00
会場:熊本市現代美術館
休館日:火曜
料金:無料
主催:熊本市現代美術館(熊本市、公益財団法人熊本市美術文化振興財団)+九州大学葉祥栄アーカイブ
問い合わせ:TEL096-278-7500(熊本市現代美術館)
公式HPはこちら
葉祥栄アーカイブについてはこちら

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