
特別企画展 「 ベトナム、記憶の風景 」展
2025/09/13(土) 〜 2025/11/09(日)
09:30 〜 18:00
福岡アジア美術館
アルトネ編集部 2025/09/19 |
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1930年代から現在までのベトナム激動の100年の歴史を辿りながら、多様なベトナム近現代美術作品110点を紹介する、日本国内では過去最大規模の展覧会「ベトナム、記憶の風景」が13日(土)から福岡市博多区下川端町の福岡アジア美術館で始まりました。
ベトナムという国は、これまでインドシナ戦争やベトナム戦争をはじめ、戦争が残した傷と絶えず向き合ってきた歴史を持っています。世界各地で争いや暴力が絶えない今だからこそ、ベトナムのアーティストがどのように困難に向き合い、表現してきたのかを知る事ができる展覧会です。
また、本展では三谷文化芸術保護情報発信事業財団によるベトナムの近現代美術の作品を保存修復する「グエン・ファン・チャン絵画保存修復プロジェクト」も紹介していています。
それでは、会場を紹介いたします。展覧会は4章で構成されています。
第1章「理想―描かれた祖国のイメージ」では、
フランス植民地下で近代美術草創期を担ったベトナム人美術家たちが、新たな時代にふさわしい祖国の理想の風景を模索した作品を紹介しています。
ベトナム戦争以前に「ベトナムの美」とは何かを模索し、表現しようとする作家たちが描いたロマンティックで美しい作品が展示されています。
第2章は「 熱気―駆け巡る戦場のリアル」。人々の団結や戦意を鼓舞するポスターや、戦場の様子を克明に記録した写真など、ベトナム戦当時の熱気を表現した作品が展示されています。
印象的だったのが、グエン・カンの 「ホーおじさん、村へ行く」です。ベトナム共産党の創設者であり、ベトナム民主共和国初代国家主席であるホー・チ・ミンが北部の少数民族と触れ合う場面を描いた作品です。いわゆるプロパガンダの系譜の肖像画かと思いますがどこか素朴な宗教画の一場面のようにも見えます。
第3章は「発展と郷愁―変わりゆく故郷のすがた」です
ベトナム戦争終結後、新たな国づくりのため都市開発や工業発展が進み、急激に変わりゆくベトナム社会を見つめた作品が展示されています。
第4章 「追憶―歴史を携えて生きること」では、戦争を直接経験していない若い世代の美術家たちが、独自の視点で個人の物語から戦争や歴史を語りなおす現代美術の作品が紹介されています。
タオ・グェン・ファンによるビデオ・インスタレーション「もの言わぬ穀粒」は第二次世界大戦中、日本統治下の時代に起こった飢饉を主題とした作品です。飢えや苦しみ、悲しみや怒りといった思いをいかに後世に継承していくかという主題が込められているということですが、一方でスクリーンに投影される映像はとても静謐で詩的な表現です。だからこそ、伝わってくるメッセージがあるのだと感じました。
最も印象に残った作品のひとつであるチュオン・タンによる「平和の母」は、スタイリッシュなドレスのような作品ですが、総長200m超の軍服を思わせる迷彩柄の布を折り込んで制作された作品です。「平和のための戦争」という論理のもとに暴力が正当化される構造、美名によって暴力性を覆い隠そうとする戦争の欺瞞が見事に表現されていると思いました。
特設コーナーの「 グエン・ファン・チャン絵画保存修復プロジェクト」では
ベトナム近代美術における絹絵の巨匠、グエン・ファン・チャンの貴重な作品を未来につなげる、三谷文化芸術保護情報発信事業財団による絵画保存修復プロジェクトを紹介されています。繊細で美しい絹絵の作品で、ベトナムと日本の美意識や自然観がとても近いのだなと感じさせる作品群です。とても素晴らしい国際文化交流であると思います。
福岡アジア美術館学芸員の桒原ふみさんは「ハリウッドの戦争映画で描かれているような固定観念にある『ベトナム』ではなく、ベトナムの人たちの視点による、ありのままのベトナムを紹介したかった。戦争によるトラウマや苦悩を経て、現在のベトナムの人々にいかに受け継がれているのか1930年代から現在までの記憶の伝承を、約100年間の近現代美術を通して伝えたい」と想いを語っていただきました。
2025年は既存の世界の在り方を大きく変えたベトナム戦争の終結から50年の節目の年にあたります。アジアの隣人として、知っているようで知られていないベトナムの過去と現在、未来への視点を「アート」によって感じることができる貴重な展覧会です。
■展覧会名:特別企画展「ベトナム、記憶の風景」展
■日時:2025/09/13(土)〜2025/11/09(日)
■時間09:30〜18:00(金・土曜日は20時まで)
■休館日:水曜日
■会場:福岡アジア美術館(福岡市博多区下川端町3-1)
(公式HPはこちら)
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