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バラエティーに富んだ「熊本のやきもの」の系譜|九州陶磁文化館 特別企画展【レポート】

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アルトネ編集部
2017/10/26
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佐賀県立九州陶磁文化館で「熊本地震復興祈念 特別企画展 熊本のやきもの-近世から現代まで、火の国の陶磁文化-」が開催されています。本展では、受け継がれてきた過去の名品だけでなく、現代の陶芸作品も出展されています。福岡市中央区赤坂のギャラリー「WHITE SPACE ONE」で現代作家たちと切磋琢磨するディレクターの齋藤一樹さんに本展を訪問してもらいました。(アルトネ編集部)

佐賀県立九州陶磁文化館にて11/26(日)まで開催されている「熊本のやきもの」展では近世から現代まで熊本で作られた陶磁器が展示されています。ただし、「熊本のやきもの」と言って、具体的にイメージできる方は多くないのではないのでしょうか。どういった陶磁器が展示されているのか、思いを巡らせながら私は有田へ向かいました。

小高い丘にある九州陶磁文化館

佐賀県有田にある九州陶磁文化館は、JR有田駅からは徒歩12分、気持ちの良い小高い丘に位置しています。以前、有田には陶器市で訪れたり、窯元のショップや工房を巡って食器を買い漁ったことがありましたが、今回ははじめて美術館に訪れます。美術館の入口には有田焼の陶版が埋め込まれた橋があったり、焼物の街に来たという実感が湧いてきました。

到着すると、手元にある展覧会のチラシとは少しイメージが異なる、爽やかな淡い色のビジュアルのパネルとくまモンが出迎えてくれました。

美術館にあるビジュアルでは淡い色で阿蘇五岳”阿蘇の涅槃像”
が描かれている
こちらがチラシのビジュアル

「阿蘇五岳は、お釈迦様が仰向けに寝ている姿に似ていることから”阿蘇の涅槃像”とも言われていますが、熊本の人にとってはすぐにピンとくるポピュラーな風景です。デザイナーさんの提案で、来館する前に見るチラシ・ポスターと、来た後に迎えられるパネルの違いを楽しんでもらおうと2バージョンのメインビジュアルを作りました。」今回は九州陶磁文化館の学芸員の德永貞紹さんに歴史背景や専門的な陶磁器の話を織り交ぜて丁寧に解説してもらいながら、一緒に会場を回りました。

熊本の陶磁生産地の分布。これを5つのセクションに分けて
展示している

会場は3つの展示室に6つのセクションに分けて展示されていました。1~5のセクションは熊本県を県北・県央・県南(1)(2)(3)の5つのエリアに分類して、近世から近代までの選りすぐりの陶磁器が並びます。最後のセクションは熊本在住、または熊本にゆかりのある現代の陶芸作家の作品が展示されています。

九州在住暦9年の私にとって、お隣の熊本県の市区町村や県北・県央などエリアの位置関係がおぼろげでしたが、まずはこの地図を頭に叩き込みました。今回の展覧会ではこのエリア分けが大事になってきます。

まず作品を見る前に德永さんは、展示の1つの仕掛けを教えてくれました。各章ごとのバナー上部の写真は、そのエリアの代表的な風景の写真がプリントされています。例えば第1章であれば、小岱山の麓に、木々があり、豊かな水源がある、そんな場所に窯がある、そういった情景や風景も照らし合わせながら焼物を見ていくと、イメージが膨らんでいきました。

各セクション毎にあるバナーにはその周辺エリアの風景がわかる写真が選ばれている

私自身、かろうじて八代焼は耳にしたことはあるのですが、それ以外の焼物になると、どのような焼物なのか想像することさえもできませんでした。德永さんの解説を聞きながら、展覧会場を回っていくうちに、今回の展示のように地域・エリア毎に分けることにより、はっきりと焼物の系譜のようなものが見えてきました。陶磁の特性として、原料となる素材の取れる場所、技法や技術、買い手となる対象などによって、その焼物のその後の発展の仕方が変わってきます。陶磁はそのエリアの歴史や自然と大きく関わりながら成長していくことを強く感じました。

そのなかで私が展覧会を回り、気になった作品をいくつか挙げていきます。

 

「第1章 県北地域の陶磁(荒尾・玉名・山鹿)」小代焼など 25件
小代焼は土味が素朴でおおらかな作風です。白い釉薬を多く使い、流し掛け装飾は非常にモダンな表現です。

「鉄釉藁灰釉流耳付水指」/肥後(熊本県)小代焼/17世紀/出光美術館所蔵

次に、はじめはオブジェかと思ったのだが、小鉢をくっつけた実用のお皿です。「見猿聞か猿言わ猿」がお皿に座っているユニークな作品です。

「灰釉藁灰釉流四猿猪口付大皿」/肥後(熊本県)小代焼/18世紀後半~19世紀/熊本県立美術館所蔵

 

「第2章 県央地域の陶磁(熊本・宇城)」網田焼・松尾焼など 20件
「象嵌(ぞうがん)」は覚えておきましょう。象嵌模様とは焼く前の粘土の状態で、模様や絵柄などの彫り込みが多く見られます。その削った箇所に白い化粧土を埋め込んで作られます。手間がかかるため、高級品とされています。松尾焼のルーツである八代焼でよく用いられる技法です。

「象嵌鹿桜花文・宝珠文皿」/肥後(熊本県)松尾焼/19世紀前半~中葉/熊本県立美術館所蔵

網田焼は天草陶石の優れた原料を用いたため、細かい細工など技術的に高いものが多く残っています。熊本藩随一の磁器産地、藩が経営する窯として保護されたこともありましたが、最盛期は長く続きませんでした。冬の釣瓶(つるべ)に水仙を差して、その表面には薄い氷が張っています。

「白磁釣瓶水滴」/肥後(熊本県)網田焼/18世紀末~19世紀初頭/松井文庫所蔵

 

「第3章 県南地域の陶磁(八代・芦北)」八代焼(高田焼)など 31件
この八代焼の作品では、青白い釉薬の流し掛け装飾で美しい文様が表されています。三日月の下部分には輪郭に沿って、細い線が見えています。これは思い通りの三日月を描くために作為的に彫ったものだと考えられています。

「鉄釉藁灰釉流茶碗(銘 新月)」/肥後(熊本県)八代焼(高田焼)/17世紀前半/個人蔵

 

「第3章 県南地域の陶磁(天草)」高浜焼、水ノ平焼など 26件
この高浜焼の花入には、花魁の姿が絵付けされ、反対面にも「いつまでも替らぬ花のふ老ふし」の句が記されています。高浜焼は天草という土地柄、長崎にも近く、肥前以外で唯一海外への輸出を試みました。ただオランダの注文に生産ラインが追いつかず、海外進出は失速していきます。

「染付花魁詩句文花入」/肥後(熊本県)高浜焼/19世紀前半/個人蔵

天草の高浜焼は、他の焼物に比べると、絵付けや絵柄も美しく、より現代的な印象を受けました。それは外国との接点が多いのも影響しているのではないかと思います。 

 

「第4章 熊本陶芸の今 -震災を乗り越える-」 熊本と熊本ゆかりの現代作家 13件
最後のセクションは熊本の現代の陶芸作品。おひとりの物故作家の方以外は、現役の作家です。作品の解説は作家自身が書くという面白い仕掛けもありました。

第4章会場の様子

衰退していた小代焼を再興した故近重治太郎の作品は、白い釉薬の藁灰釉の美しさが、現代の小代焼として現れていました。福吉浩一の作品は、器体に横線を彫り込み、色土を象嵌(ぞうがん)した線象嵌の規則正しい感覚が心地よいです。

(左)「手桶形水指」/近重治太郎(1895-1995)熊本県 /昭和39年(1964年制作)/熊本市立熊本博物館所蔵
(右)「炭化線象嵌花器」/福吉浩一(1954-)熊本県 /平成23年(2011年制作)/個人蔵

 

このように近世から近代までの陶磁作品がそれぞれ展示され、そして最終章に現代の作家の陶磁作品が展示されていました。展覧会を回ってみると、私自身感じることがありました。現代の作家は、それぞれ窯を開いている場所で、その地域の焼物を継承して、あるいは新たに自身の作風として確立しながら、作陶しています。それは過去の焼物が広がっていった歴史となんら変わりない自然な流れでもあるように思います。

私は、福岡でアートギャラリーの展示企画をしているのですが、絵画・映像・写真・工芸など多岐にわたるジャンルで現代の作家が作品を発表しています。どの作家も自身の作品制作に没頭して、その瞬間・その時に出せるベストな作品を展覧会で発表します。ただ、いざ展覧会が始まると、多くの作家は、自身の作った作品がどう見られるか、どう評価されていくのか、作品の鑑賞者のリアクションに対峙していくのです。そういったプロセスを経て、また作品のもつ意味や価値を自分のものとして再構築していきます。そのコール&レスポンスこそが同時代を生きる作家の作品に出会うことの醍醐味であると思っています。今回の九州陶磁文化館の展覧会に出品している、現代の作家のなかにも「熊本のやきもの」の系譜の中で、自身の作品がどこに位置して、さらにその伝統や技術を未来に繋げていくのかを模索して、作陶をする作家の方もいました。一方でそういった「熊本のやきもの」歴史の流れがありながらも、それには影響を受けず、熊本のもつ自然の恵みや環境の中で作陶して、自分自身が信じる世界観を構築して、革新的な焼物を作り続けている作家がいることが多くいることにも気づかされたのです。いずれも同時代を生きる作家には違いないのですが、歴史の上での役割も、制作のプロセスも異なっています。ただこの両者が共に在ることで「熊本のやきもの」の持っている奥深さを、今を生きる私にはさらに感じ取ることができました。

全国的にはややマイナーとも言える「熊本のやきもの」ですが、今回の展覧会で、熊本全土それぞれのエリアで、個性的な焼物があることがわかりました。地域・エリアに根ざした焼物が多く、その時々の時代に必要とされていた人のために作り、広がっていたのです。そして、いまなお現代の作家が、火の国・熊本で、窯に火を入れ続けています。

 

展覧会関連イベント
今回解説していただいた德永さんや九州陶磁文化館学芸員さんと回る、ギャラリートークも毎週開催されています。合わせてお楽しみください。

■開催記念講演会「肥後・熊本の陶磁史をさぐる」 (参加無料)
日時:2017年11月4日(土)13:00~16:00  
会場:九州陶磁文化館 講堂 定員150名
肥後・熊本の陶磁史について、熊本からお招きする5名の講師と本館名誉顧問および展覧会担当学芸員が、各地域の多様な特徴や歴史的意義を語ります。

1) 德永貞紹(佐賀県立九州陶磁文化館)
「熊本のやきもの-火の国の陶磁文化-」
2) 福原 透(八代市立博物館)
「肥後の近世陶磁史と豊前・上野焼の陶工-八代、小代と知られざる二窯、山鹿と牧崎」
3) 美濃口雅朗(熊本市文化振興課)
「熊本城・城下周辺における肥後産陶磁の使用」
4) 岡本真也(熊本県教育庁文化課)
「人吉・球磨の近世陶磁器について」
5) 中山 圭(天草市観光文化部)
「天草陶磁器生産技術の系譜-肥前から天草へ-」
6) 歳川喜三生(天草市立本渡歴史民俗資料館)
「天草の陶器について-水の平焼を中心として-」
7) 大橋康二(佐賀県立九州陶磁文化館名誉顧問)
「江戸時代、天草高浜焼の主な製品の変遷-在銘品を中心として-」

■ギャラリートーク(参加無料。申込み不要。ただし観覧料が必要です。)
毎週土曜日の14:00から1時間程度、学芸員が見どころを解説するギャラリートークをおこないます。※11月4日(土)は記念講演会開催のため、11月3日(祝・金)に実施。

■ロビーコンサート(鑑賞無料)
熊本県内で活動中の「ティアラ」によるロビーコンサートをおこないます。フルートとヴァイオリンデュオによる演奏で被災地の復興を願って開催。

出演:「アンサンブル ティアラ」
日時:2017年10月29日(日)
1回目 11:30~12:00/2回目 14:00~14:30

 

齋藤 一樹(さいとう・かずき)1982年京都府生まれ。2008年「⻩金町バザール」の立ち上げスタッフ。2009年福岡に移住。現在は「WHITE SPACE ONE」で現代美術の企画ギャ ラリーを運営。また「TAKEO MABOROSHI TERMINAL(佐賀県武雄市)」「UMINAKA TAIYOSO AIR(福岡市東区大岳)」のディレクターとして、既存施設や空き店舗で展覧会を行うアートイベントの企画・運営もおこなう。なお今年度には、武雄の窯元・工房のサポートを受けて、現代美術作家が陶磁を素材とした作品制作を行うレジデンス企画も手がけている。

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