ホキ美術館所蔵名品展~超絶リアリズム絵画~
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福岡アジア美術館
木下貴子 2023/04/10 |
福岡アジア美術館(アジ美)のアーティスト・イン・レジデンス事業、Ⅲ期アーティストたちが滞在制作した作品や成果展(2月25日〜3月5日)の様子をそれぞれ紹介していく特集記事。3回にわたって各アーティストたちの滞在制作した作品や成果展の様子をお伝えします。第二弾は、福岡を拠点に活動を行っている長野櫻子さんです。
※その1、ドクペルーの記事はコチラ
■長野櫻子
《それぞれの日々》予告編、原画ほか
展示会場:Artist Cafe Fukuoka内ギャラリー(ACFギャラリー)、福岡アジア美術館
福岡市在住の長野さんが今回のレジデンスに応募した大きな理由の一つに、作品のもととなる人々へのインタビューを知らない人にまで広げたい、自分一人では限界があるけど美術館でのプロジェクトであればそれが叶えられるのではとの思いがあったといいます。今回のレジデンスで長野さんは、福岡市在住の6組(7人)にインタビューを行い、短編アニメーション作品の制作を進めていきました。
成果展では、初日にアジ美8階あじびホールにて上映会&トークが行われ、ACFとアジ美にて作品の制作過程を見せる展示が行われました。
上映後のトークでは、インディペンデント・キュレーターの原田真紀さんを聞き手に、長野さんのこれまでの活動や制作、今回の新作について深掘りされました。
世界的なパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症。この出来事は、長野さんの制作に大きく影響を与えたといいます。それまでは自分のこと、つまり個人的な感情を作品テーマとしていましたが、コロナ禍によって社会が分断するという経験を経て、自己中心から他者へと関心が移り、作品テーマも他者の気持ちや感情を描くものに変わっていったと話します。
新作《それぞれの日々》は、ずばりコロナ禍をテーマにしています。コロナ禍の影響で大学院を休学し、福岡に戻ってきて就職したものの「出身が北九州市なので福岡に知り合いが全然いなく、コミュニケーションをとる人が会社の同僚10人ほどだけという状況が1年くらい続きました」と長野さんは話します。「一方でテレビでは毎日、感染状況が報道されていて、『この街にはこんなにも人がいるのだろうか』と感じるようになり、自分以外の人がコロナ禍でどう過ごしているのか、何を考えているのか、同じような不安を抱えている人がいるのではないだろうかと関心をもつようになりました。それが今回の作品の出発点です」。
新作に向けて長野さんが話を聞いた6組(7人)の人たちは、長野さんの知人も含まれますが、レジデンスコーディネーターらの紹介などにより10代から60代という年代も職業も様々な、幅広い層になりました。長野さんは、それぞれの人たちにコロナ禍以前と以後の生活でどのような変化があったかなどを尋ねながら、1時間ほどかけてじっくりと話を聞いていったといいます。「インタビューでは答えを誘導するような質問は避けるよう心がけましたが、みなさんやはりそれぞれ大変な思いをされたようで、私が誘導するまでもなく、胸の内をたくさんお話ししてくださいました」。
《それぞれの日々》はデジタルではなく、手描きによるアナログ作品であり、1秒につき10枚の原画が使われます。長野さんは今のところ約10分の作品を想定しており、つまり概算すると6,000枚の原画が必要になります。長野さんはレジデンスの前半1カ月をインタビューにあて、後半1カ月を制作にあてましたが、とうてい完成に間に合うわけはありません。タイトな時間を駆使して作品の予告編までを制作し、成果展ではその上映や原画展示などを行いました。
今回、手描き作品にこだわったのは、「マスクの質感を表現したかったから」と長野さん。下の写真から伝わりますでしょうか? マスクの質感や立体感を出すために、修正液でマスクが描かれています。
ACFギャラリーでは、長野さんが話を聞いた6組(7人)のインタビューを抜粋したパネルも展示されていました。中学1年生のときに急に休校になり、クラスメイトと突然の別れを体験したという10代の男子高校生の話、コロナ禍の中で結婚した男性・女性の話、試行錯誤しながら営業を続けた飲食店を営む女性の話……。そこに綴られているのは個人的な経験や思いではあるものの、見る人によっては自分と重なるような話もあったのではないでしょうか。
今年いっぱいを目標に《それぞれの日々》の完成を目指すという長野さん。「誰かの思いを共感することで、誰かの救いになるような作品にしたい」と、いわゆるストーリーは明確に描かず、登場人物の感情もセリフではなく音楽で表していくようです(今作の音楽は、九州大学芸工学部の協力によるもの)。特定の人たちの話がもとになるものの、多くの人が共感できるような普遍的な作品が期待できそうです。
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