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第18回 福岡アジア美術館 アーティスト・イン・レジデンスの成果展「記録と表現−立ち止まり、また動き出す」レポート/ 〈その3〉下寺孝典[タイヤ](大阪)

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木下貴子
2023/04/25
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 福岡アジア美術館(アジ美)のアーティスト・イン・レジデンス事業、Ⅲ期アーティストたちが滞在制作した作品や成果展(2月25日〜3月5日)の様子を、3回にわたってそれぞれ紹介していく特集記事。最終回は、大阪からやってきた下寺孝典[タイヤ]さんのレポートです。

※その1、ドクペルーの記事はコチラ
※その2、長野櫻子さんの記事はコチラ

アジ美7階アートカフェに展示された《動く屋根》
撮影:竹藤龍祐

■下寺孝典[タイヤ]
《動く屋根》

展示会場:福岡アジア美術館、Artist Cafe Fukuoka内スタジオ(ACFスタジオ)

 下寺さんは屋台研究家として、4年ほど前から東南アジアの都市でみられる移動式屋台のリサーチを行ってきました。いわゆる飲食や場を提供する屋台の機能のみならず、屋台を作る人、メンテナンスする人などそのネットワークにまで視点を広げ、それを「屋台の生態系」ととらえ、実際に現地の屋台工場に弟子入りしたりもしながら調査を進めています。

 しかしコロナ禍により海外渡航ができなくなりました。そこで下寺さんは日本の屋台へと目を向け、市内に100軒を超える屋台がある福岡に着目し、3年前から屋台調査で度々福岡を訪れていたといいます。そこに、今回のレジデンスです。滞在が始まってすぐの頃、「これまでは短期滞在でしたが、2カ月も滞在できるので、実際に住むことで見えてくる肌感覚を大切に楽しみたい」と語っていたのが印象的でした。

 成果展では、アジ美をメイン会場に新作インスタレーション作品《動く屋根》を発表し、初日にはトーク&パーティ「動く屋根の下で」が開催されました。

「動く屋根の下で」でのトークの様子
撮影:竹藤龍祐

 「今回のレジデンスでは、まず『屋台とは何か』を探ろうと思いました」と下寺さん。「辞書で『屋台』を引くと『屋根つきの小さな移動できるお店』と定義されていて、それってふつうで、本質ではないないなぁと感じていて。アーティストとして作品を作るうえで、屋台の意味を根本的に考えたいと思っています。最近では僕の中で『屋台』は『動く屋根』と一つ定義づけています」。

 そこから「屋台の屋根」について考えを掘り下げていった下寺さん。「ふだん何もない場所に屋根が現れることで、居心地のいい場が生まれ、人々が集まるようになる。屋根によって『1つの空間』と認識されるようになるのではないだろうか」と屋根のもつ可能性を見出しました。そして下寺さんは、以前より関係を築いてきた福岡の屋台製作で有名な「赤城製作所」の総監督を務める赤城孝子さん、大工の松本孝敏さんと一緒に、約3週間かけて福岡の屋台の屋根を制作したといいます。

下寺さん
撮影:竹藤龍祐

 トーク後のパーティでは、下寺さん自作のおでんがふるまわれました。

おでんをふるまいながら、来場者と交流
撮影:竹藤龍祐

 《動く屋根》では、この福岡の屋台の屋根をはじめ、下寺さんがこれまでにリサーチして制作したアジア各国の屋台の屋根も天井から吊るされていました。私はふだんからアジ美のカフェを利用することが多いのですが、頭上に一つ屋根があるだけで、いままでにない安心感というか心地よさを感じました。不思議ですね。

下寺さんが赤城さん、松本さんと一緒に制作した福岡の屋台の屋根
左)暖簾の絵は、下寺さんとアートユニット「親指姫」を組む画家の丹羽優太さん、
屋号の文字は東福寺塔頭光明院住職の藤田慶水さんによるものです
右)福岡の屋台にはふだんヒノキが使われますが、今回は吊る=軽さを重視してスギを使用。
「美術館に展示するものだから作品でもある」と、
赤城さんたちが節の1つもない立派な製材を用意してくれました
撮影:竹藤龍祐
左)ステンレスでできた台湾の屋根(手前)のようにアジア各国の屋台の屋根からは、それぞれの国の特徴が現れていました
右)名島小学校の児童42人とのワークショップで制作した屋根。好きな食べ物をテーマに描いてもらいました
撮影:竹藤龍祐

 ACFスタジオでは、過去に下寺さんがリサーチしたアジア各国の屋台の写真、下寺さん・リサーチャーの蔵薗悠介さん・映像記録の中谷利明さんによる「屋台リサーチプロジェクト」が2021年9月に福岡で行った調査の記録、また今回のレジデンスの制作プロセスを見せる映像や資材などの資料が展示されていました。

左)アジア各国の屋台の写真
右)「屋台リサーチプロジェクト」による福岡の屋台の調査資料
撮影:竹藤龍祐
今回のレジデンスの滞在制作のプロセスを伝える資料。左写真の中心の奥にあるのは、赤城製作所から譲り受けた福岡の屋台の1/2模型です
撮影:竹藤龍祐

 下寺さんは休まることを知らないのか、会期中、様々に活動。《動く屋根》の会場でラジオ番組を収録したり、アジ美で展示していたインド型リヤカー屋台をACFまでひいて歩いて運んだり、そのリヤカー屋台を使ってACFピロティで自作のチャイをふるまったり、また成果展の最終日には自ら企画したクロージング・トークのイベントを開きました。

下寺孝典クロージング・トーク「屋根の可能性/仮説の可能性」。ベトナムに住んだ経験をもつ建築家・岩元真明さん(九州大学芸術工学研究院 環境設計部門、ICADA)をゲストに迎えました

 クロージング・トークでは、「1つ屋根があるだけで共有する時間が生まれると思った」「いかに屋台を軽くできるかが僕の永遠の課題になりました。その構造を編み出したい」などと話していた下寺さん。また、「いま観光的な要素が強い福岡の屋台をいかに生活の延長にしてボトムアップ的に街の未来を作り上げられないか」「福岡に連続して屋台が連なる風景をつくりたい」などとも発言もされていました。

 福岡での滞在制作は終了しましたが、まだまだ活動は続いていくようです。今回のレジデンスを通して、下寺さんの福岡での活動の新たなるスタート、第二章のはじまりに立ち会えたように思いました。

【インフォメーション】
■下寺孝典の屋台ラジオ「動く屋根の下で」
アジアを旅する屋台研究家、下寺孝典の屋台ラジオ「動く屋根の下で」。福岡とアジアの屋根が吊るされた福岡アジア美術館7階アートカフェの会場で、アーティストの長野櫻子さんをゲストに迎えて「動く屋根」について語るトーク。
開催中の展覧会「第18回アーティスト・イン・レジデンスの成果展2022、記録と表現立ち止まり、また動き出す」の模様を現場からお伝えします!

▶LOVE FM PODCAST https://lovefm.co.jp/files/podcast_file/oCffu0fPfAOpieWtu5XjdDcTZd6iJMWb3clSSBeN9OWA0CyttV.mp3

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