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満開の桜に負けず劣らず人々を魅了した「福岡城まるごとミュージアム」【レポート】

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木下貴子
2018/05/07
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桜が咲き誇る時期、福岡城跡にて「福岡城まるごとミュージアム」が開催された(3月30日~4月8日)。文化芸術で福岡を盛り上げる「福岡市文化プログラム」の記念すべき第1弾として福岡市と福岡市美術館、福岡アジア美術館、(公財)福岡市文化芸術振興財団が連携して取り組んだこの展覧会では、満開の桜に負けないほど強い印象を放った作品が展示され、アートファンだけでなく花見客をも巻き込んで、大変な話題となった。改めてその内容を振り返ってみる。

会場マップ

福岡城跡北側にある潮見櫓から、南側にある多聞櫓まで6人の現代アート作家による作品が点在。自由に見て回ることもできたが、南から北へ順を追って見ることに決め、まずは多聞櫓へ向かってみると……。多聞櫓を前にして、キラキラと陽の光を反射する大きな作品が迎えてくれた。

スーザン・ヴィクター《日の出》

こちらは、シンガポールのスーザン・ヴィクターによる《日の出》。円形のレンズシート600枚を使い、日の出をイメージして作られたそう。太陽の動きや天候、風など自然の動きにあわせ表情を豊かに変える作品だ。【地図(4)】

近づくと、桜がこんなに美しく反射。

多聞櫓では、韓国のヤルーと京都を拠点に活躍する岡本光博の作品が展示されていた【地図(3)(6)】。櫓には16の部屋があり、その内、ヤルーが7部屋、岡本が8部屋を使ってそれぞれがインスタレーション作品を施し、なんとも贅沢で見ごたえある展示となっていた。

多聞櫓のそばにも桜が。

2017年5月から8月にアジ美に滞在したヤルーは、その時にみた博多祇園山笠などの伝統文化や、ドラッグストアの商品、スーパーの果物など、福岡の日常にある様々なイメージを元に作った映像インスタレーション作品《ヤルー城》を発表。

ヤル―《ヤル―城》(部分)

プロジェクション・マッピングを使った映像作品は、どう説明したらいいのだろう。ヤルー独特の世界感はすさまじい破壊力! ちなみに上の2つの写真の作品は山笠の飾り山をイメージしたもので、頭蓋骨は山笠の弔いの儀式を表しているとか…独創的すぎる!

黒い物体は、ドラッグストアで見つけた毛穴パック。

 

こちらは「高麗人参マン」。

《ヤルー城》は、まるでテーマパークの体験施設のような、怖キモかわいくて不思議な楽しい作品。ヒップホップな「高麗人参マン」が登場する、ぶっとんだVR動画の作品も発表されていた。

 

岡本光博は、現代社会でタブー視される事象に、ユーモアを交えて切り込んだ作品で注目されるアーティストだ。本展の作品《LINE》は8つの部屋に8つの作品を「LINE」というテーマのもとに展示してあった。幸運にもちょうど設営で来福していた岡本氏に話を伺うことができた。

「多聞櫓はかつて弾薬庫だったり、また女子寮だったり様々な役割を果たした建物だと聞き、福岡の歴史を脈々と残す中で、いろんな側面で陰と陽が写し出されているように感じました。自分自身が作品でずっと表してきた『表と裏』に通じているように思え、その部分も出せるよう『LINE』という導線をもとに、作品をつなげていきました」と岡本氏。

岡本氏の展示は過去の作品をこの場所のために構成し直した新作インスタレーション。各部屋の作品には「LINE」が引かれてあり、それぞれが異なる。

こちらの部屋は、立ち入り禁止箇所に張られる黄色と黒のロープ(トラロープ)で作った《虎縄文》を使ったインスタレーション。もちろんLINEもトラロープ。

《LINE2 w#114虎縄文》(部分)

この《虎縄文》は、2006年に青森県立美術館で開催された「縄文と現代」という展覧会で縄文土器をイメージして作られた作品で、トラロープがぐるぐると巻かれている。よくみると縞模様がきれいに施されていて緻密に計算しながら巻かれたのがわかる。「縞はフェイドアウトするところを熱で溶かしながら模様を作っていきました。制作に半年かかりましたが、この作業によって筋肉的にみえる効果も生まれました」。

「順路が一方通行なので見落としてしまいそうになりますが、見上げると子虎がいるんですよ」と岡本氏。この3兄弟は今回の展示に向けて新たに作られた。

 

ほかにも東日本大震災が契機となって形にしたという生命保険会社のロゴマークをジャケットにした《ライフジャケット》や、「日本中どこへ行っても同じ風景です。地方、地域の独自性がどこまでなくなるのか」と説明してくれた《コンビニ》などが展示されていた。

《LINE4 w#155ライフジャケット》(部分)

 

《LINE5 w#225コンビニ》(部分)。この部屋のLINEはセンサーで、鑑賞者を感知すると馴染みあるメロディが流れて来る。

 

《LINE7 w#221 UFO unidentified falling object》(部分)。⾳もなく⾼速で回るオブジェは本展のための新作。LINEは、人類は読めない文字が書かれた「宇宙テープ」だ。

いずれの作品も社会における問題や矛盾点がテーマとされ、それに対してアンチテーゼ、あるいはアイロニーなメッセージが込められているものの、「美術館ではないので、ポップに楽しんでもらえる範囲で構成しました。ふだんアートを見ない人にとって、この展示がアートの導入になると嬉しいですね。いいなとか楽しいなとかいうアートの一面を、これをきっかけに知ってもらえたら」と話してくれた。

展示作品《覆面パトカー》の映像に使われた、マスコットキャラクターの覆面をかぶって、ポートレイト写真に臨んでくれた岡本氏(左)。

 

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