坂茂建築展
仮設住宅から美術館まで
2020/04/24(金) 〜 2020/06/21(日)
10:00 〜 19:00
大分県立美術館(OPAM)
2020/06/27 |
建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を2014年に受賞した坂茂(ばんしげる)さんは、安価で組み立てが容易な「紙の建築」を実用化、仮設住宅や難民シェルターを世界各地で提供するなど、軽いフットワークで多彩な活動を続けている。自ら設計した大分県立美術館で開催中の大規模個展では、社会の変化や技術革新に対して、地に足のついた一人の人間としての感覚を堅持しながらアプローチを続ける、誠実な建築家の姿が浮かび上がってくる。
坂さんは1957年、東京生まれ。米国留学を経て磯崎新アトリエに勤務し、85年に独立した。紙管を構造材として用いた「紙の建築」の始まりは86年、東京であった「アルヴァ・アアルト展」の会場構成だ。坂さんは、木を使った有機的な曲線が特徴の建築家アアルトの作風を取り入れた空間の実現を考えた。木を多用する予算がなく、目を付けたのが布を巻くための紙管だった。細長い円柱を並べて面を成し、自在な曲面の構造物を出現させた。
「木を使えたとして会期後に廃棄するのはもったいない」。坂さんはそう考えた。日本経済がバブル景気へと差し掛かる時期。「エコロジー」や「サステナビリティー」への意識も社会全体としてはまだ希薄だった。既にそうした感覚で建築のあり方を考えていたのである。
95年には、紙管を恒久建築の構造材とする初の例である自邸が完成した。同じ年の阪神大震災後には、紙管が主な部材の仮設住宅を提供。その後も地震や風水害に遭った国内外の被災地で活動し、高まる災害リスクや環境負荷の低さから、注目を集め続けてきた。
本展は、仮設建築物の実物や、構造の一部を再現した原寸大模型が豊富に展示され、坂さんが重ねてきた探求が浮かび上がる。
紙管の使い方は柱のように立てるだけではない。木製のパーツでつなぎ、アーチを描くことも、トラス構造を組むこともある。弱い紙も、使い方によっては強さを持つのである。神戸の仮設住宅は、実物と同様に館内で施工、再現した。ビールケースと砂袋を基礎とする床はがっしりしている。紙管と紙管が強力に圧着された壁は、プレハブより安心感がある。
実物展示は計6件。体験することに重きを置いた会場構成も、坂さんの考え方の表明だろう。
厳選した約800枚のスケッチは初公開。コンセプチュアルなものや細部の構造まで、手とともに考えた軌跡だ。「手で描く絵は心に直結している」。坂さんは解説用に収録した映像でそう語る。考えるよりも感じることを優先する思想は、災害に対して危険を顧みず、支援へと素早く対応する実践にもつながっているのだろう。
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展示の後半部は、設計コンセプトである「開かれた美術館」を体現している。通常の展示スペース内ではなく、横長のガラス窓に面した吹き抜けに展示した。窓の向こうは歩道。つまり屋外から展示の一部を見ることができるのだ。管理条件が厳しい絵画の場合には検討が必要だが、コロナ禍で制約を受ける美術館の将来のあり方にも可能性を示した。
展示のラストは紙管と布を組み合わせた避難所用の間仕切りシステム。04年の新潟県中越地震以降、16年の熊本地震まで実践例を積み上げてきた。目下懸案の新型コロナをめぐる避難所での感染防止に対しても、仕切りの布をピンで留めるというシンプルなプランを早速打ち出した。飛沫(ひまつ)感染抑止に効果が期待されるという。現代を代表する建築家は、名声を得てもそこに安住はせず、感覚を研ぎ澄まして常に次の手を考え続ける。(諏訪部真)
◇「坂茂建築展 仮設住宅から美術館まで」は7月5日まで。仮設建築の実物や模型、スケッチなど千点を超える資料で35年に及ぶ仕事を振り返る。一般千円など。
=6月26日付西日本新聞社朝刊に掲載=
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