江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2020/06/28 |
不知火海の海岸線に山々が迫る、熊本県南部の津奈木町。町立つなぎ美術館が2014年から、毎年アーティストを招くレジデンスプログラムで、19年の作家に選ばれた。海辺の空き家に暮らし、廃校をアトリエ代わりにして、昨年夏から冬にかけて4カ月の滞在制作に臨んだ。
「美しい風景が日常の人に向けて、何を描いたら良いのだろう」
プレッシャーを感じた。終わってみれば、住民と交流しながら19点の日本画を生み出していた。そのメインとなる「つなぐ」は縦3・6メートル、横5メートルの大作。画面右には、町のシンボルの奇岩「重盤岩」が描かれている。岩から伸びる赤いレールは、美術館と岩山の展望所を結ぶモノレールがモチーフとなっている。
山裾は広がりながら形を変え、やがて海になる。海は木々に姿を変える。作品では、自然界のすべては分断ではなく連環の中に存在することを体現した。ワークショップで住民が作った貼り絵も使い、津奈木という土地とのつながりも落とし込んだ。
2度の震災に遭った経験がある。日本画を専攻した東北芸術工科大時代の2011年3月と、大分県別府市に移住後の2016年4月だ。
「土地が人に及ぼす影響を肌で感じている。だからこそ風景を描きたい」
「つなぐ」に描かれた荒れるような海や、重く暗い色彩をまとった岩肌の表現は、自身の被災経験と全く無関係ではないだろう。
世界は新型コロナウイルスという自然災害とは異なる災厄に見舞われている。「どうしようもない現実に直面した時、芸術は無力であるかもしれないけど、想像力が誰かの救いになると思いながら、絵を描いている」。多くの人が息苦しい生活を送り、差別や攻撃が世の中を暗くする今、まっすぐな気持ちで絵筆を握る。岐阜県出身、32歳。別府市には「芸術祭が定着しており、地域とアートの関わり方に共感した」ため移住し、7年目。(諏訪部真)
=6月26日付西日本新聞社朝刊に掲載=
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