江口寿史展
EGUCHI in ASIA
2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館
2020/07/02 |
代表作「ニュクスの角灯(ランタン)」をはじめ、これまで発表した漫画に登場する骨董(こっとう)品の数々が美術館の白い展示空間に並ぶ。「物たちも喜んでいますね。誇らしげな顔をしています」。所有する漫画家高浜寛さん(43)=熊本県天草市出身=はそれらの逸品の気持ちをそう代弁した。同県内を拠点に活動する高浜さんが、地元の熊本市現代美術館で企画展を開催している。
同館は、作品の大半がフランス語に翻訳され、海外でも高く評価される気鋭の漫画家の資料に着目した。日本が近代化の道を歩み始めた明治初期の長崎やパリを舞台にした「ニュクス―」や現在連載中の「扇島歳時記」の原画と、時代考証のために自ら購入して参考にした骨董品を組み合わせた展示を通して、作品の背景にある世界の広がりが見えてくる。
高浜さんは実生活で集めた古い食器やじゅうたんを使っているという。価値の高い希少品の購入は避けた。
「いい状態で保管する場所もスキルもないので。大切に使って次世代に引き渡したい」
次世代につなごうという意識は、資料として集めた物への思いだけでなく、作品そのものにもにじむ。
例えば「ニュクスの角灯」。人生を悲観した主人公の少女が、さまざまな事情を抱えながらも前向きに生きる大人たちの言葉や態度に導かれ、人生を切り開いて世界に飛び出していく。
「40代に入り、私もそういう婆(ばば)ぁにならねば、という気持ちが芽生えました。70歳まで描けたとしてあと25年ほど。テーマや作品はよく絞り込んで、質をあげる工夫を考えねばと思います」
高浜さん自身、人生の先達に道を照らされたことがある。穏やかな死を迎えるためのホスピスでのボランティアなどを通じて、入院患者らの体験を見聞きしてきた。「人は言葉一つで救われることがある。私の漫画を読む下の世代の人たちの助けになるかもしれないから」と、上の世代から受け取った言葉を積極的に作中に盛り込んでいる。
新型コロナによって日常が変わり、同じ漫画も全く違って見えてくる。昨年完結した「ニュクス―」には、こんな場面がある。
太平洋戦争末期の熊本の防空壕(ごう)で戦火におびえる孫娘に、年老いた主人公が伝えるのだ。
「今がどれほど困難でも前向きに生きてほしい」。他にも作中の言葉の数々は新型コロナ以後の現代にも通じるところがある。
会場がコロナの影響で休館中に、「ニュクスの角灯」は手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受賞した。しばらくは驚きと喜びが大きかったが、時間の経過とともに別の思いが膨らんだ。次世代にプラスの影響を与える作品を描いていきたい思いがさらに強くなったのだ。ただ、単純にポジティブな内容を描けばいいというわけではないとして、こう補足説明する。
「悪や無益なものを描くとしても読んだ人がテーマについて考える機会になったり、心に何かを残せる内容であるという意味が近いと思います」
主に歴史漫画を描く漫画家にとって、100年に一度とも言われる今回の新型感染症の流行で、人類の歴史に刻まれる体験をしたのは貴重だった。長いスパンで現状を俯瞰(ふかん)し、事態が収束した後に「あの時はこうだった」と子々孫々に伝えていく大切さに思いをはせる。いつか若い人たちに見せようと、国から配られたマスクは開封せずに保管している。 (佐々木直樹)
◇「高浜寛の漫画に登場するアイテムで読み解く19世紀末(ベルエポック)展
7月5日まで、熊本市現代美術館井手宣通記念ギャラリー、入場無料
=7月1日付西日本新聞朝刊に掲載=
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2024/10/26(土) 〜 2024/12/01(日)
九州芸文館