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福岡アジア美術館
2020/11/20 |
福岡県出身の現代美術家柳幸典さんが熊本県津奈木町のつなぎ美術館を拠点にアートプロジェクトを進めている。2019年から3年間かけて地域資源を生かした作品を制作。15日にはその一環で「男と女とハダカとアート」と題したトークイベントを開き、公共空間における裸体像について専門家と語り合った。
柳さんが津奈木町を訪れた際、気になったことの一つが裸体像の存在だった。町内の各所に男女の裸の像が点在。橋の欄干の上に立つ金色の像もあった。「なぜ裸体なのか?」。そんな疑問が今回のトークのきっかけとなった。柳さんと、彫刻家で彫刻研究家の小田原のどかさんが登壇。オンラインで美術史研究家の木下直之さんも参加した。
冒頭で木下さんは明治以降の裸体像の受容について説明。裸体像の作り手が現れるのは1900年代で、まだ作品は美術館などで展示されるにとどまっていた。50年代以降に屋外の公共空間に置かれ始め、上野駅前の裸婦像を皮切りに地方都市に広がっていく。
特に戦後は、多くの軍人像が撤去され、その代わりに戦没者追悼の目的などで裸体像が設置されるようになる。木下さんは歴史的な経緯を知ることの大切さを訴えた。「どのように設置され、撤去されたのか。またどのように語られてきたか。それを把握した上で評価することが重要」
小田原さんは国内外の最新事情を報告。米国では先住民族虐殺を理由にコロンブス像が破壊された。「#MeToo」の発端となった映画プロデューサーの公判があった裁判所近くに、男の頭部を持つ女の裸像が設置されたケースを紹介し「裸であることが意味を帯びている場合がある」と指摘した。さらに、彫刻を歴史観や価値観を映し出し、議論を喚起する「鏡」と表現。「彫刻は変わっていない。変わるのは私たちの方なのでは」と問いかけた。
柳さんは今回のプロジェクトで町の裸体像に地域の人たちが服を着せる計画が頓挫したことを明かした。
「住民参加のプロジェクトなので着せ替えを楽しんでもらえると思った」
制作者の遺族の意向などもあって前に進まなかったという。柳さんは芸術という特権に隠れ、批判をタブーにすべきでないと強調する。なぜ裸なのか。なぜ彫刻でなければいけないか。「津奈木の彫刻も時代に応じて語られないといけない」と締めくくった。
米現代美術家のクリストは有名な建造物を布で覆うことでその存在を改めて考えさせた。アーティスト集団「Chim↑Pom」は、渋谷駅にある岡本太郎の壁画に福島原発事故を思わせる絵を加えた。著作権との絡みはあるが、既存の作品に手を加えて別の意味を付加させることは、芸術表現の手段の一つである。
今回のプロジェクトで、裸体像を使った作品が生み出されるのは難しいかもしれない。それでも柳さんは「問題提起はできた。この先何か動きがあれば良い」と言う。公共の場にある裸体像について、思いを巡らせ、考え始めること。彫刻ではなく、まず私たちが変わるための一石を、柳さんが投じたことは確かだ。
つなぎ美術館では「柳幸典つなぎプロジェクト成果展2020」を開催中。巨大な石から石牟礼道子さんの詩の朗読が聞こえる屋外作品の試作などを展示。23日まで一般300円。(小川祥平)
=(11月18日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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