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コロナ禍の一年(美術)/ 所蔵品活用へ軸足 鑑賞の意義も再認識

2020/12/23 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
消毒液と検温用のカメラが置かれた福岡県立美術館の入口

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で4~5月の一時期、九州の主だった公立美術館のほとんどが臨時休館となった。行政による拡大防止策の一環とはいえ、公共施設が常に市民に開かれた状態を保てないという悩ましい状態に陥った。

 政府が緊急事態宣言を解除した5月中旬以降は開館に転じた。対策として手指消毒、サーマルカメラによる検温、名前と緊急連絡先の記入といった入館前の手続きが、今や普通の光景になった。他にも今回の感染症騒ぎが、美術を楽しむ場に与えた変化は多い。

 大きな影響の一つは、国内外の名品で集客を図るような大規模な展覧会が開催できなくなったことだ。7~10月に福岡市美術館に巡回予定だった「ボストン美術館展」は米国からの作品輸送が困難になり、東京会場を含めて中止になった。行列ができるほどの集客が見込める展覧会には、しばらくは慎重にならざるを得ないだろう。現状で実施する場合は、予約制度の導入など主催者側には混雑緩和の対策が求められている。

 そんな苦境を逆手に、自館の所蔵品活用に工夫を凝らす動きも活発になった。スペインリアリズムの巨匠マヌエル・フランケロ展など、夏から秋に複数の目玉企画が延期となった長崎県美術館は、代替の試みとして所蔵品展「長崎美術往来」(10月~来年1月)を開催。描かれ、撮られた長崎を徹底的に集め、作家を引きつけてやまない郷土の魅力を浮き上がらせた。大分県立美術館の「天国と地獄」(8~9月)も、所蔵品を新しい文脈で構成した。同館担当者は「大規模展が開催できないのなら、コレクションの生かし方に知恵を絞ることが欠かせなくなる」とみる。

 「インバウンド」と呼ばれる海外旅行客はいつ戻るか分からず、観光の先行きは不透明だ。所蔵品活用や情報発信に、今まで以上にてこ入れする時期と言える。

 臨時休館を終えた後には、美術館やギャラリーが持つ空間、場所としての力を強く感じた。作品や展示風景をインターネットで発信するオンライン化が進んだが、美術品が並ぶ空間に身を置くことと、画面越しに見るのは根本的に違う。気ままに展示室を歩けば、気分によって目に留まる作品は違うし、同じ作品を前にしても感じることは違う。絵や彫刻を単なる情報から感覚を刺激する新鮮な体験に変えるためには、空間や場所の価値はまだ大きい。

 一方で、実際に足を運ぶ以外の多角的な楽しみ方も増えた。福岡市博多区の「アルタスギャラリー」が主導して10月に開催した「Fukuoka Art Week」は、同時に展覧会を開いた市内3カ所のギャラリーの展示風景を360度カメラで見せた。拡張現実(AR)の技術を使い、スマートフォンがあれば自宅の壁に絵を飾った様子を疑似的に再現できる仕組みも公開した。

 ウイルスによって心まで侵されるような時代だからこそ、美術の放つ光が際立つ。その場所と体験が現場のさまざまな知恵で守られ続けることを願う。

 今年はそのほか、福岡県立美術館の移転先が福岡市の大濠公園南側に決定(1月)。1979年開廊の画廊「とわーる」(同市中央区)が都心部の再開発に伴い営業を終えた(8月)。

 夏場は三菱地所アルティアムの最果タヒ展、熊本市現代美術館の谷川俊太郎展と詩人による個展が近い時期にあり、言語表現を「展示」する試みも印象に残った。福岡市美術館で開かれた「藤田嗣治と彼が愛した布たち」(10月中旬~12月初旬)は、手芸を愛好する藤田の一面から作品群を再考する内容。その新鮮な藤田像は福岡だけの展示にするのは惜しく、全国に巡回してほしい企画展だった。

 訃報もあった。写真家の奈良原一高が1月、画家の菊畑茂久馬が5月、池田龍雄が11月に死去した。コロナの影響以外でも一つの時代の区切りを感じる一年だった。 (諏訪部真)

=(12月18日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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