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随筆喫茶/ アートの眼で世界を知る 村上博史

2021/01/20 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 知らない世界を知ることの楽しさを知ったのは何歳の頃だっただろう。幼少期、気が付けば本を読み、科学や宇宙、考古学や歴史等の「世界」を知ることに興味を持った。

 特に漫画は絵で世界観を視覚情報として直接的に伝えてくれ、その中には作家の込めた「世界」が凝縮され、様々な知らない世界を教えてくれる。絵やデザインを好きになったのは漫画がきっかけだったと思う。

 美術館や博物館にはよく観賞に行っていたが、大学時代に学んだ「アートプランニング」の講義で現代アートの面白さに触れ、展覧会も観に行くようになり、福岡のアート情報を紹介する「プラスフクオカ」というウェブメディアを始めた。

 アート業界関係者や作家と交流する機会が増え、とあるきっかけで私自身が作家として個展を開催する経験も与えていただき、2019年には福岡市博多区にアルタスギャラリーという現代美術ギャラリーを立ち上げるに至った。福岡でのアート活動を主観的・客観的立場から知る機会を得て、日本のアートシーンの中で、福岡などの「地方」の抱えている問題点と可能性が見えてきた。

 日本の美術市場は世界と比べて圧倒的に狭い。日本の市場は世界全体の約3・8%と言われ、最大規模のアメリカが約44%、アジア圏の中国が約18%であり、国土が日本より小さなイギリスが約20%ある事からも狭さを感じる。さらに日本は東京中心の市場となっており、注目していた福岡の美術家が何人も東京や世界に活動の場を移すのを見てきた。

 作家が作家業のみで生きていける土壌を地方にも作る事が、ひいては美術市場を広げる事につながると思う。そのためには、アートが「特別なものではなく身近に在ることが当たり前」の世界にしていかないといけない。歴史は積み重ね、日々の一日一日が当たり前の「日常」になっていく。そのための活動は地方でもできるし、地方だからこそ発信できることも多くあると思う。

 私は昨年「Fukuoka Art Week」というプロジェクトを立ち上げた。ドイツの「Berlin Art Week」から着想を得て、美術市場中心のアートだけではない、地域にとってのアートを、地域に支持され根付くアートを目指した。

 コロナの影響もあり大きな活動はできなかったが、福岡市内のギャラリーではこのプロジェクトに合わせた展覧会を開催。昨年10月に博多阪急で行われた「Kyushu New Art」と「九州派展」にも賛同いただき、福岡のアート界がまとまってアートを伝えていく姿勢をお見せできた。

 2021年以降は地元の大学等の教育機関とも連携し、学生にも主体的に参加してもらい、また、地元の経済界とのつながりも深める活動を考え動きだしている。直接的にアートと関係していない分野とも協力することで、より「日常」の中でアートを身近に感じてもらえるような活動を進めていきたい。

 「アート」は知らなかった世界を知るための「眼」のようなもの。「アートの眼」で今まで見えなかった世界を観て、世界の広さと深さ、そして楽しさを知ってほしい。

=(1月17日付西日本新聞朝刊に掲載)=


 

むらかみ・ひろふみ
1981年、福岡県田川市生まれ。大阪芸大建築学科卒。2013年に福岡のアート紹介メディア「プラスフクオカ」を開設。「アルタスギャラリー」代表、「フォトガイドふくおか」代表兼編集長、「Fukuoka Art Week」実行委員長等として、福岡の芸術・文化の活性化に取り組む。

 

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