ゴッホ展
響きあう魂 ヘレーネとフィンセント
2021/12/23(木) 〜 2022/02/13(日)
09:30 〜 17:30
福岡市美術館
浅野 佳子 2022/01/28 |
福岡市美術館では2月13日まで「ゴッホ展――響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」が開催中です。「福岡にゴッホが来る!」というだけでもテンションが上がりますが、今回の展覧会の大きな特徴は、ゴッホに魅了されて世界最大の収集家となった女性ヘレーネ・クレラー=ミュラーのコレクションであるということ。現在のような評価が定まる前、まだ無名に近かったゴッホの作品を、なぜ彼女が収集することになったのかを考えながら鑑賞できる構成になっています。
ゴッホを一番たくさん集めた女性
1869年にドイツで生まれたヘレーネ・クレラー=ミュラーは、教師の道を志すも両親の反対を受け断念。結婚後、移住した先のオランダで、ヘンク・ブレマーという美術批評家の講義を受けたことで、美術の世界に目覚め、鉄鋼業と海運業で財を成した夫とともに作品収集を始めます。
会場には、クレラー=ミュラー夫妻が、ゴッホ作品のどの作品を、いつ、いくらで購入したかが分かる年表が展示されていて、かなり興味深い! 素描から絵画まで、時代も幅広く収集されていて、そのおかげで今回わたしたちは様々な時代のゴッホ作品を体系的に見ることができます。展覧会も、オランダ時代から、晩年の療養生活を送ったフランスのサン=レミ、オーヴェール・シュル・オワーズ時代まで、時系列に沿って構成されています。
ヘレーネは順調にコレクションできたかというと、実はそうでもなく、彼女の収集活動の前には、第一次世界大戦や世界恐慌、会社の経営危機など、様々な困難が立ちはだかります。にも関わらず情熱を持って収集を続け、最終的にはクレラー=ミュラー美術館を開館させ、その初代館長となります。
いよいよゴッホを見るぞ!
今回の大きな話題は、なんといっても〈糸杉〉こと《夜のプロヴァンスの田舎道》が16年ぶりに来日していること。
ゴッホは、フランスのアルルやサン=レミで過ごした2年間で、〈糸杉〉に関する連作を65点も描いていて、この作品もその1つです。ゴーギャンが提唱したという「記憶から描く」という手法で描かれており、目の前の風景ではなく、ゴッホの記憶の中の糸杉であり夜の風景です。ゴッホにとって糸杉を描くというのは、いったいどういう営みだったのでしょうか。
今回の展覧会で個人的にとても心惹かれた作品は、同時代に描かれた《草地の木の幹》でした。
中心がどこにもなくて、意味を極力排除しつつ、目の喜びに忠実に描かれたような感じがして、のびのびとした気分になりました。ゴッホは浮世絵の研究をしていましたが、この作品の木の幹の大胆なカットの仕方や草花に対する繊細な配慮は、その影響もあると言われています。
オランダ時代の素描にもおもしろい作品を見つけました。打って変わってこちらの作品は苦悩に満ちているように見えます。
この作品には対になる作品として、悲しみにくれる身重の裸婦を描いた素描があるそう。このときのゴッホは自然を擬人化しようとしていたようで、このような手紙が残されています。
「僕は風景に人間のような感情を吹き込もうと試みた。木の根は、木も狂わんばかりになんとか大地にしがみつこうとしているが、嵐で半分に裂けてしまっている。色白で細身の女性の姿にも、コブだらけのゴツゴツした黒い木の根にも、何か生命の闘いのようなものを、表現したかったのだ」(テオ宛、1882年5月1日)
もちろんその他にも有名な作品がたくさんやってきており、見どころいっぱいです。みなさんはどの作品が気になりますか?
展覧会の最後の部屋では、ヘレーネが集めたゴッホ以外の作家の作品を見ることができます。
ヘレーネは、自分の楽しみのためだけでなく、西欧美術の流れに目を配ることができるように、18世紀〜1920年代までの作品も広く収集しました。敬虔なキリスト教徒の家に生まれた彼女は、常に人生の深い意味を模索し続けており、これらの作品の収集にあたっても、その姿勢が表れたエピソードが残されています。
今回展示されているオディロン・ルドン《キュクロプス》は、ホメロスの『オデュッセイア』に登場する一つ目の人食い巨人を描いたもの。ヘレーネは、あまりに現実離れした神話の場面に、最初は不快感を抱いていましたが、だんだんとルドン作品の持つ深みや美しさを理解するようになり、多くの作品を収集したそうです。
どうしてこんなに熱心に集めたのか?
それにしても、困難な時期があったにも関わらず、ヘレーネはどうして熱心に収集を続けたのでしょうか。ヘレーネは、ヘンク・ブレマーの美術講義を受けた際、「普遍的なもの、人間が見て取れるものを選びなさい」と教えを受けます。キリスト教の家に生まれつつ、聖書の全てが正しいとは思えなかった彼女は、それに替わるものとして芸術を見出したのではないかと考えられています。そのような彼女にとって、農民を描き、日々の営みを描き、そこに尊さを見出していたゴッホの人間観と魂が共鳴したのかもしれません。
またゴッホを始めとする画家たちが、自分の存在を「絵を描くこと」で示そうとするあり方に対して、ヘレーネは「絵を集めること」で自分の存在を示そうとしたのかもしれないとも感じました。収集された作品群から、彼女がどんな人だったのか、垣間見ることができるような気がします。
あと忘れてはいけないのが、ミュージアムグッズ! こちらを楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。今回のゴッホ展は、オリジナルグッズのバリエーションも豊富で、ステーショナリーからエコバッグ、お菓子まで、記念に残るものから日常使いできるものまで、いろいろあって目移りしてしまいます。こちらもお見逃しなく!
ゴッホ展――響きあう魂 ヘレーネとフィンセント
会期:2021年12月23日(木)〜2022年2月13日(日)
開館時間:9:30〜17:30(入館は17:00まで)
会場:福岡市美術館(福岡市中央区大濠公園1-6)
観覧料:一般2,000円、高大生1,300円、小中生800円
※本展は、会場内の密集を避けるため、土日祝は日時指定チケットの事前購入を推奨します。平日は予約不要でご入場いただけます。
■「ゴッホ展ーー響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」のチケットのご購入は
コチラから。
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