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いにしえを視る 古代エジプト展<上>ライデン大由来のコレクション 解体せずミイラ保存

2022/04/16 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 人間をかたどった棺がずらりと並ぶ。色とりどりで見た目は鮮やか。そして近づくと意外に大きい。福岡市博物館で開催中の特別展「古代エジプト展」。棺の展示といえば横たわっているのが普通だが、12点の棺が直立している。足を止めてじっと見つめる観覧者たち。その隣で私は2年半前のことを思い出していた。 

「古代エジプト展」福岡会場では、棺を制作年代順に並べ、その変遷が分かるようにしている

 コロナ禍などという言葉がなかった2019年11月、オランダを旅していた。目的地は「ライデン国立古代博物館」。大英博物館やルーブル美術館と並び五大エジプトコレクションの一つに数えられる同館でも同じように棺が立ち並んでいた。

水路沿いにあるライデン国立古代博物館

 見下ろすのではなく、目線が近くなることで気付くことが多い。まず表情が違う。髪や肌の色も違う。胴体に目を移すと、装飾や手の付き方も違う。聞けば、制作された時代によって形、色、図柄が異なるという。例えば黄色は太陽光、黒は肥沃な大地を表しているそうだ。

 ほかにもミイラの胸の上に置かれた石「スカラベ」や副葬したお守り「護符」、墓地から発掘された石碑や石像。そしてミイラもあった。福岡会場でも同様の展示品が並んでいるのだが、約2万5千点の古代エジプト遺物を収蔵するその規模はやはり圧巻だった。

 「でもコレクションだけではないですよ」。インタビューに応じたウィム・ウェイランド館長は誇らしげに強調した。「私たちの博物館は研究、修復、発掘も含めてオランダにおける考古学の中心地です」  

「エジプト誌」を手にするララ・ヴァイス学芸員。同誌にはミイラに関する記述もある

 ライデンはオランダの首都アムステルダムから南西約40キロに位置する人口約12万人の小さな都市。風車があり、運河や水路が巡らされたオランダらしいたたずまいで、「学生の街」として知られている。

 「古代博物館のエジプトコレクションはもともとライデン大学にあったものです」と同館のララ・ヴァイス学芸員は言う。その大学は博物館から歩いてすぐの所にあった。1575年創立はオランダ最古。16世紀末に医学教育のために公開で人体解剖をした「解剖劇場」が設置されるなど医学の先進地だった。

 一方、ヨーロッパでエジプトへの関心が高まったのは、18世紀末のナポレオンによる軍事遠征が大きく影響した。随行の学者たちが大著「エジプト誌」を刊行したほか、遠征時に発見したロゼッタ・ストーンをもとに象形文字「ヒエログリフ」が解読され、古代エジプト文化がひもとかれ始めた。  

ライデン出身の画家レンブラントは、ライデン大での解剖の様子を「テュルプ博士の解剖学講義」に描いた=オランダ・ハーグ、マウリッツハイス美術館

 古代エジプト展の監修者で中部大の中野智章教授によると、第1次エジプトブームは19世紀に訪れた。イギリスはどちらかというと見せ物趣味、フランスは美術の分野での興味が強かった。ミイラが長寿の薬として使われるなど好奇の対象でもあった。

 当時、世界的な海洋王国だったオランダにもエジプト由来の品が多く入ってきた。英仏と同じような扱われ方もしたが、中野教授はライデン国立古代博物館のコレクションはほかと一線を画すと考える。

 「医学部のコレクションを譲り受けてスタートしている。だから質が高い上に広範囲にわたっている。もともとが学術目的。それがこのコレクションの特異性です」

 ミイラを所蔵する美術館、博物館では研究のために解体することも少なくなかった。一方、ライデン国立古代博物館ではミイラに巻かれた布を剝がすことをほとんどしていない。

 その方針を決めたのはライデン大学教授で初代館長のキャスパー・ルーヴェンスだ。彼は学術資料として入手したミイラを保護し、将来の技術発展を待った。

 「ミイラは一度ほどいてしまうと駄目になる。ルーヴェンスの判断はとても良かったと思います」とヴァイス学芸員は言う。

 初代館長の選択は、20世紀以降のミイラ解析に役立つことになる。(小川祥平)

=(4月13日付西日本新聞朝刊に掲載)=

 

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