ライデン国立古代博物館所蔵
古代エジプト展
2022/03/12(土) 〜 2022/06/19(日)
09:30 〜 17:30
福岡市博物館
2022/04/17 |
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ひっそりとした夜の総合病院に、木箱に入った“患者”が運び込まれた。2019年11月、オランダのアムステルダム・メディカル・センター。箱から出されたのは死後2800年ほどのミイラだった。布に巻かれたまま検査台に載せられる。スイッチを入れると、ドーナツ型のCTスキャナーに吸い込まれていった。
「腹部に小さな像が見えるでしょ。これはかなり珍しいケース」。スキャン中、隣室のモニターに流れてくる画像を見ながらライデン国立古代博物館のダニエル・ソーリマン学芸員は話してくれた。
ミイラは紀元前800年頃の男性で、エジプトの古代都市テーベの墓地に葬られていたと考えられている。推定死亡年齢は44~55歳。歯や一部の骨の状態は悪いものの、目立った病気の痕跡はない。ミイラにする過程での損傷が見つかった。
ソーリマン学芸員が注目するのは腹部に入っていた小さな像だ。「高さ14センチほどの人形で材質は土製と思われる」。同じ時期、同じ場所に葬られていたとされる女性のミイラ(ライデン国立古代博物館所蔵)の体内にも似たような像が入っていたという。
「知る限り世界中でこの2例のみ。この時代の風習なのかもしれない。何のために入れたのか。2人がどういう関係なのか。今後さらなる調査が必要だ」
ライデン国立古代博物館による初のミイラ解剖は設立間もない1824年のこと。しかし中身は当時の商人による変造品だった。この出来事をきっかけに初代館長キャスパー・ルーヴェンスがミイラの解体を禁じることになる。
本格的な調査は1965年のエックス線撮影から始まった。2000年前後には全ミイラのCTスキャンを実施。男女のミイラもこの時に体内に遺留物があることが判明していたという。ただ「当時の解像度は低かった。最近の技術進化は本当に目覚ましい」とソーリマン学芸員。今回の「古代エジプト展」に合わせ、この男女2体を含むミイラ計4体を再スキャン。体内の小さな像の詳細が分かったほか、ヘビのミイラ解析では、牙の形状からその種がコブラだと判明した。
解析だけでなく「見せ方」にもこだわる。CTスキャンのデータはインタースペクトラル社(スウェーデン)に送る。同社は、ミイラの布、皮膚、体の内部、骨など各層の3Dビジュアルを作成。この画像は見る角度を自由に変えられ、輪切りにして断面を表示することもできる。同社のトマス・リデルさんは「ミイラだけの展示では外側しか分からない。でもこの画像なら、内部をさまざまな角度から見せられる」と言う。
ライデンをはじめ、ヨーロッパのいくつかの博物館、美術館では、3Dビジュアルを自由に操作できるタッチスクリーンの設置が進んでいる。
「古代エジプト展」福岡会場の終盤、腹部に小さな像を持つ男性のミイラがあった。私にとってはアムステルダムの病院以来2年半ぶりの再会となった。
インタースペクトラル社による3Dビジュアルを交えながらの解説モニターも設置され、その周りには人が絶えなかった。やはりミイラ人気はすごい。
なぜミイラはここまで現代の人々を引きつけるのだろう? そんなことを考えているとソーリマン学芸員の言葉がよみがえってきた。
「われわれと同じ肉体が数千年もの時を超えて残っていることに引かれる。でも、物理的なものだけではない。生への希求、死への恐怖。古代エジプト人も現代のわれわれと同じことを考えていた。そこに共感しているのかも」
古代エジプト人は死後も同じ生活が続くと考えた。そして魂が戻る場所として肉体を保存した。それがミイラだった。
目の前の男性ミイラも死後の世界を信じて永遠の肉体を手に入れた。古代から現代へ。生活や社会が進化しても、人間の悩みは案外変わっていないのかもしれない。もちろん、21世紀にエジプトから9千キロ以上離れた福岡にいるとは、この男性もまさか思っていなかっただろうけど。(小川祥平)
=(4月14日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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