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古今東西織り交ぜて 十人十色の世界生む  九州初個展を開催中のアーティスト入江明日香さん【コラム】

2022/09/21 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 豊かな色彩と精緻な銅版画のコラージュで、虚構と現実を織り交ぜた世界を表現するアーティスト入江明日香さんは、浮世絵、写実画、イラストといったジャンルを横断した絵画の楽しみを提案する。初期作品から最新作まで約70点を集めた九州初開催の個展「時空の旅人」では、その展示会タイトルの通り、古今や和洋が混在する不思議な物語に見る者はいざなわれる。

                                       入江明日香さんは、伝統的な日本の版画と西洋の技術を組み合わせながら版画にできる表現の可能性を広げていきたいと語る

 暴れ川を渡る渡し船に、ちょんまげの男や釣り客などが相乗りしている。

 「平成 東海道五拾三次之内:川崎(入江明日香オリジナル)」(2019年)は、歌川広重の浮世絵シリーズ「東海道五拾三次之内」のオマージュとして取り組むライフワークの一つ。広重が描いたであろう場所へ行き、現代の景色と広重の景色を手彫りの銅版画、写真製版や絵画を重ねたミクストメディアだ。松林の奥に赤い夕焼けと雪化粧の富士を見通すが、近づいて見ると間にはビル群などが連なっている。絵画の記録性や時代性とだまし絵のような遊び心が同居した、入江作品を象徴している。

「平成 東海道五拾三次之内:川崎(入江明日香オリジナル)」(2019年)

 入江さんは1980年東京生まれ。多摩美術大で版画を専攻した。初期は抽象的な黒い銅版画を制作したが、次第にカラー作品に変化する。2005年、実験的に作ったという赤、青、黄色の多色刷りと絵画を組み合わせたコラージュ「Blue poppy」で「第4回池田満寿夫記念芸術賞展」の大賞を受賞し、作家として注目され始めた。

 入江さんによると、版画の世界では一つの版で作品世界を完結させることを重んじる。そうすると、刷版するプレス機に合わせたサイズに限定されてしまう。だが、どうしても「100号とか200号とか、大きな絵画が描きたかった」のだそうだ。そこで学生時代から、複数の版画を重ねて大きな作品にするスタイルを採用する。周りからは「版画を切り貼りするなんて、けしからん」という反応も多かったが、「描きたい物のために技術を使う。版画もツールの一つ」と割り切った。

 びょうぶ絵「Le Petit Cardinal」(14年)は、12年に1年間フランス留学し、西洋の版画技術を一から学ぶ中で構想した。パリと日本風の景色の中を、人や動物が自由奔放に動き回る。浮世絵風の表現が登場するのはこの頃から。本作もパリの街並みの上空には、浮世絵の技法「一文字ぼかし」で空が描かれている。

「Le Petit Cardinal」(2014年)

 きっかけは、留学時にパリで開かれていた浮世絵の展覧会だった。自国の文化が物珍しい異文化として熱心に鑑賞され、絵画としてリスペクトされる様子を目の当たりにして、自分の中の「西洋対東洋」といった固い分類が溶けていく感じを覚えたという。

 本展では、帰国後に日本の寺社などから着想して取り組んできた仏像や侍がモチーフの作品も多く紹介する。この親しみやすい人物造形や細部にわたって書き込まれる「和風」な表現が醸し出す世界観の作品群によって、幅広く新しいファンを獲得していった。

 人気の背景には、作品に作家自身の物語やメッセージが込められていないことがあるかもしれない。

 「あれもこれも描きたい」という入江さんの表現欲求から生み出された作品群の多くは細部にわたって草木や衣服、余白を埋めるような情報が丹念に描き込まれているがゆえ、何に注目するかで見え方が変わってくる。時空を超えた浮世絵を味わう人、児童文学の世界や大河ドラマの一場面が見える人もいれば、「推し」となる対象を見つける人もいるだろう。

 見る側の方がそれぞれの物語やメッセージを想像力で見つけ出しているのだ。銅版画のコラージュと言う技法で絵画を柔軟に追究する入江さんの純粋でひたむきな姿勢から、十人十色のあらゆる人に開かれた作品は生みだされているのである。 (川口史帆)

=(9月16日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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