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【コラム】「あるがままに生きよ」に触れる 「法然と極楽浄土」展 九州国立博物館 国宝など113件、浄土宗の教え伝える

2025/10/24 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 仏教の教えが衰えるという末法思想や武士の台頭などによる社会の混乱が広がった平安時代末期から鎌倉時代。魂の救済を求める人々の思いに呼応するように、誰もが実践できるシンプルな教えや修行を説く新しい仏教=鎌倉仏教が生まれた。九州国立博物館(福岡県太宰府市)で開催中の「法然と極楽浄土」展は、法然上人(1133~1212)によって鎌倉仏教の中で最も早く教義を確立し、日本の歴史に大きな影響を与えた浄土宗の歩みと教えを、国宝6件や重要文化財45件を含む113件の文化財で読み解いている。

国宝「阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)」
(鎌倉時代、京都・知恩院)=6日、福岡県太宰府市(撮影・永田浩)

 浄土宗系の教えの基本は「南無阿弥陀仏(私は阿弥陀如来に帰依します)」の念仏をひたすらとなえること。そうすれば阿弥陀如来の救いにより阿弥陀如来がいる極楽浄土に行くことができる、と説く。

 法然は当初天台宗の僧侶として修行していたが、中国の善導大師(613~81)が確立した浄土教を学び、1175年に浄土宗を開いた。法然の弟子で第二祖・聖光(しょうこう)上人(1162~1238)らに引き継がれて浄土宗は国内に広がり、江戸時代には増上寺(東京都港区)が徳川将軍家の菩提(ぼだい)寺にもなった。

 北九州市八幡西区の弘善寺住職で、浄土宗総合研究所(東京)研究員の柴田泰山(たいせん)さんは「法然上人は浄土真宗や時宗も含めた日本における念仏信仰の『元祖』。その教えは『やさしさ』と『慈しみ』を、そして『決して強がらなくてもいい』『あるがままに生きていけばいい』というメッセージを伝え、日本人の精神文化に計り知れない影響を与えた」と語る。

 展示品の一部を紹介しよう。

 「法然上人像(隆信御影(たかのぶみえい))」は、総本山の京都・知恩院が所蔵する。法然が後白河法皇に「往生要集」を講義した様子を藤原隆信が描いたという説話があり、その話と結び付けられている図。ただし、実際に描かれた年代は法然や隆信より新しいという。

「法然上人像(隆信御影)」(鎌倉時代、京都・知恩院)

 「聖光上人坐像」は福岡県久留米市の大本山善導寺の所蔵。ヒノキの寄せ木造りで、現在の北九州市に生まれ、九州を拠点に法然の教えを伝えることに半生をささげた聖光の強い意志を感じさせる。

重要文化財「聖光上人坐像」(鎌倉時代、福岡(久留米)・善導寺)

 はるかかなたの極楽浄土を仰ぎ見るかのように見えるのは福岡市博多区の善導寺の「善導大師立像」。胸の前で合掌し上方を向く顔の柔らかさが印象的だ。九州国立博物館の調査で頭の内部に人間の歯が2本入れてあるのが分かった。聖光の歯だという見方もある。

 その善導の目に、人々を救いに現れた阿弥陀如来は見えていたのだろうか。知恩院蔵の「阿弥陀二十五菩薩(ぼさつ)来迎図(早来迎)」(展示は11月3日まで)は、左上から右下へ流れる阿弥陀如来の乗った雲がスピード感を感じさせる。

 「見返り阿弥陀」とも呼ばれる山形・善光寺の「阿弥陀如来立像」は首をひねって後ろを見る姿が印象的だ。迎えに行った魂がちゃんとついてきているかを確認しているのだろうか。

 アフロヘアのような髪の「五劫思惟(ごこうしゆい)阿弥陀如来坐像」。人々をどう救うか考えた数百億年の時間を盛り上がった螺髪(らほつ)で表現する。頭部だけで50センチもあろうかという奈良・五劫院が所蔵するこの仏は、善導の作という伝承も残っているが、実際は鎌倉時代の作品だ。

ユニークな頭の形をした重要文化財「五劫思惟阿弥陀如来坐像」(鎌倉時代、奈良・五劫院)
=6日、福岡県太宰府市(撮影・永田浩)

 「大蔵経(宋版)」は、増上寺が所蔵する3セットの大蔵経のうちの一つ。大蔵経とは5千巻を超える仏教経典を総集したものをいい、増上寺のそれは今年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録された。

ユネスコ「世界の記憶」に登録されている重要文化財「大蔵経(宋版)」
(中国・宋代、東京・増上寺)=6日、福岡県太宰府市(撮影・永田浩)

 このほかにも国宝や重要文化財を含む多くの展示物が並ぶ「法然と極楽浄土」展。日本人の心と日本の歴史に大きな影響を与えた教えに触れてみてはいかがだろうか。
(古賀英毅)

●聖光上人に由来 二つの善導寺 浄土宗、福岡とも深い縁
 浄土宗は九州、特に福岡と縁が深い。中でも大本山・善導寺(福岡県久留米市)と博多・善導寺(福岡市博多区)の二つの善導寺は聖光と深い関わりがある。
「大本山」は聖光の開山。今の北九州市八幡西区で生まれた聖光は、当初は天台宗の僧だった。その時に「大本山」の前身となる寺を開いた。その後、法然と出会って入門。大本山がある地域の有力武士だった草野氏が帰依して土地などの寄進を受けた。

大本山・善導寺にある樹齢800年と言われるクスの巨木。
奥の2本は根元から二つの幹に分かれた1本のクス。
幹が分かれたクスの奥に見えるのが本堂

 一方、「博多」は箱崎(福岡市東区)に流れ着いた善導の木像を聖光が安置したことが始まり。聖光は、英彦山での修行中に善導大師が博多に来るという夢を見て駆けつけたという。建暦年間(1211~13)のこととされる。

 広大な「大本山」の境内で目立つのは、2本のクスの巨木。樹齢800年とされ、聖光が自ら植えたものだと伝わる。また筑紫箏曲の発祥地で、その記念碑もある。一方、「博多」は、交易で栄えた中世博多の町の一角にある寺院らしく、境内には1358年の銘がある「蒙古碇石」や南宋時代の「十王図」を所蔵する。

博多・善導寺の境内にある「蒙古碇石」(左)

▼特別展「法然と極楽浄土」 11月30日まで、九州国立博物館(福岡県太宰府市)。西日本新聞社など主催。国宝6件など113件を展示(会期中に展示替えあり)。一般2000円、高大生1200円、中学生以下無料。ハローダイヤル=050(5542)8600。

=(10月16日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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