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本橋成一 原点 ・筑豊で個展 全ての生へ惜しみない賛歌【コラム】

2018/07/18 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

「共感」という言葉はくせものだ。安易な表明は相手への陳腐な擦り寄りにしかならない。しかし紛(まご)うことなく、本橋成一の写真は被写体への共感で成り立っている。もちろん、前述の意味ではない。

本橋が「原点」と呼ぶ筑豊での個展には、初期の未発表作品から炭鉱などを写した代表作を含む九つのシリーズ約250点が並ぶ。映画監督としても知られる本橋の、写真家としての仕事を総覧する。

東京出身の本橋が写真専門学校の卒業制作で炭鉱をテーマに選んだのは、上野英信「追われゆく坑夫たち」(1960年)に衝撃を受けたからだ。さらに当時、ベストセラーとなった土門拳「筑豊のこどもたち」(同)の影響で、あまたの写真家が土門流の「悲惨な」被写体を求め彼の地を踏んだ。本橋もその一人。筑豊のほとんどの人たちはカメラを提げた「よそ者」に心を閉ざしたが、本橋は太陽賞を受ける「炭鉱〈ヤマ〉」(68年)をものにした。なぜか。会場に並ぶ写真がその理由を雄弁に語る。

会場入り口に大きく引き延ばされた屈託のない笑顔のきょうだい、真っ暗な狭い坑道で汗を光らせ一心不乱に採掘する坑夫たち。土門の時より斜陽化が進んだであろう筑豊で、彼らの表情は無防備に近い。本橋は筑豊を訪れると、上野の元に通い詰め、師弟のように共に巡った。

鞍手、福岡 1965年(撮影・本橋成一)


筑豊に根ざした上野から、どこに軸足を置いて表現するのかを学んだ本橋は、被写体と同じ地平に立ちレンズを構えた。土門は半月ほどで筑豊を撮ったとされる一方、数年にわたり再訪を重ねた。土門の写真はカミソリに、対して本橋は刃の欠けた肥後守(ひごのかみ)(ナイフ)に例えられたという。

この比喩は、被写体を切り取る鋭さよりも、懐に飛び込み日常を浮かび上がらせようとした本橋の流儀を的確に表していると言えよう。その点で、本橋の作品は上野の記録文学に近い。

筑豊に限らず、チェルノブイリ原発事故の放射能で汚染されたベラルーシの村やサーカス団、大衆演劇など、本橋の目は社会の本流ではなく、追われる者、あるいは傍らにいる者たちに向けられた。撮影よりも関係性の構築を優先する本橋のカメラに収められた彼らの表情は柔らかい。

白眉(はくび)は大阪の食肉処理場を写した「屠場〈とば〉」シリーズ。機械化が進む以前の80年代に人が直接牛を屠(ほふ)り皮を剥ぎ、解体した姿などを生々しく写した。命を奪う過程を知らずに賞味する私たちのために手を血で染めた彼らの姿は、ある種の神々しささえ帯びる。

松原、大阪 1986年(撮影・本橋成一)


本橋は、当時の筑豊という「辺境」で懸命に生きる命と出会い、自らにとって「居心地のいい」場所を写してきた。その作品群は、被写体への共感を通り越し、全ての生にささげられた惜しみない賛歌に思えてならない。 (藤原賢吾)=7月11日西日本新聞朝刊に掲載=

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