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ポップな画風に潜む孤独 「ハートカクテル」連載から35年 わたせせいぞう作品展【コラム】

2018/09/14 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
本展のために描き下ろした新作「始まりはいつもパサージュ」
©SEIZO WATASE/APPLE FARM INC.

●「こんな時代だから純愛を描きたい」
1話4ページの漫画に、日本が元気だった1980年代の「まぶしさ」が凝縮されている。北九州市出身のイラストレーター・漫画家わたせせいぞうさん(73)=東京都在住=が、代表作「ハートカクテル」(83~89年)の連載開始から35年を記念した作品展を博多大丸(福岡市)で開いている。特設会場に並ぶ漫画の原画やイラストなど約150点が発する光彩は今も色あせていない。

ハートカクテル第1巻表紙イラスト


「ハートカクテル」はオールカラーの各回読み切り形式で、若い男女の心の機微を描いた。登場人物は多くを語らない。各コマの「間」が読者の想像力を刺激する。結末は時に甘く、ほろ苦い。詩的な珠玉のショートストーリーが若者を中心に共感を呼び、「大人の絵本」とも称された。
男と女がいれば当然別れもある。だが、愁嘆場を描いたことはない。「みんな現実は分かっている。いちいち描いても仕方ない。温かい読後感を持ってもらいたかった」
鮮やかな色調と当時流行したトラッドファッション。米西海岸を思わせるポップな画風は、バブル時代独特の華やかさと、ある種の軽さの象徴にみえる。

ハートカクテル「ウイングチップの忠言」より


だが、表層の奥に込めたテーマは「孤独」だった。登場人物は恋人や仲間に寄りかからない。適度な距離感を保ち、独りでも自分の時間を楽しむ姿を描いた。同時代の79年にデビューした村上春樹の初期の主人公にも重なる。
自身にも自覚がある。大学進学で北九州から上京後、「周囲に人が大勢いるほど孤独を感じた」と振り返る。大学卒業後、損害保険会社のサラリーマンと漫画家の「二足のわらじ」生活を送った。会社で仲間が増えても孤独感は変わらなかった。世間や社会がどうであろうと、「僕は僕で生きていく」という生き方が作品に反映されている。
45年生まれの全共闘世代。大学時代はグループサウンズに熱中し、学生運動には参加しなかったが「心中では共感していた」。集団を形成する中で表面化する偽善や押しつけに対する反骨精神は抱えていた。
会社員時代には、浴衣姿で無礼講とは名ばかりの宴会をする社員旅行の慣習が嫌でがらりと変えた。会場は宿泊施設付きのレクリエーションセンター。夜の宴会はスーツ着用、テーブル着席でフランス料理にワイン。翌日はテニスやゴルフを楽しんだ。同調圧力に押され、自己主張できない今の若者を危ぐする。
連載終了からまもなく30年。90年代初頭のバブル崩壊や、その後の「失われた20年」と呼ばれる長期停滞を経て、社会は活力を失っていった。そんな中で今年4月、「ハート」より10歳ほど年を重ねた大人たちが織り成す人生の機微を描いた漫画「ワンダーカクテル」の連載をインターネットで始めた。
「一人の女性にときめき、ずっと好きでいる純粋な愛を描いていきたい。愁嘆場もどろどろもいらない。こんな時代だから純愛を描きたい」
オールカラーで読み切りのスタイルはそのままに、過去との邂逅が物語の核になっている。 (佐々木直樹)=9月11日西日本新聞朝刊に掲載=

本展は9月17日まで大丸福岡天神店本館8階特別会場にて。入場料は一般800円、大学・高校生500円、中学生以下無料。

福岡市で作品展を開いている、わたせせいぞうさん

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