ホキ美術館所蔵名品展~超絶リアリズム絵画~
2024/09/07(土) 〜 2024/10/13(日)
福岡アジア美術館
アルトネ編集部 2017/05/23 |
ARTNE(アルトネ)では、九州・山口各地に目を向け、アート関連の読み物を届ける。【Book】では、アート関連書籍に関するコラムを各地の書き手に寄せてもらう。
第2回目の書き手は、熊本市で本と喫茶と雑貨を味わう橙書店を営む田尻久子氏。熊本出身の坂口恭平氏による最新作品集を取り上げてもらった。(編集部)
坂口恭平は、作家であり建築家であり、音楽家でもある。そして、絵も描いている。本書は、彼のドローイング作品、290点を掲載した作品集である。
躁鬱病を公言している坂口恭平は、鬱に入ると世間と交流が出来なくなる。死にたくなることすら、あるという。しかし、眼前に紙があれば、書くあるいは描くことで、彼は生き延びる。その思いを込めて、この作品集には"God is paper”というタイトルが付けられた。紙への感謝を込めて。
苦しいとき、何を描いているのかわからないと言いながらも、膨大な数の作品を彼は生み出す。それは、言葉でも絵でも、音楽であっても構わない。鬱から抜け出したときは、創ること自体が重要なのだと本人も確信出来ている。
溢れだした言葉は、文章という枠を飛び越えて自在に紙の上を動きまわり、空間を必要としない建築物を作り出す。絵は、道具が手と一体化しているのかと思うほどの速さで、次々と描かれる。五分で仕上がることもあるというが、彼があちらの世界で苦しんでいる長い時間が、その五分を生み出すのだろう。そうやって描かれた絵は、平面という枠をはみ出して、私たちの想像力をかき立てる。音を感じる人もいれば、物語を読み取る人もいるだろう。見ているうちに、紙という物体は物体でなくなり、そこに描かれているものは、描かれていないものを見せ始める。
彼がいつも心配している「不必要なもの創り出しているのではないか」という不安は、まったくの杞憂に過ぎないのだが、その不安も作品を作り出す原動力となっているのかもしれない。目の前にある捉えどころのない何かを、紙に置換する。その行為が彼を救い、こちらへと引き戻す。誰もがそう出来ればいいのかもしれない。しかし、かけないという人は、まずは彼の絵を見てみることから始めてはどうだろうか。救われるとは言わないが、こちらへとどまることは、そう難しいことではない、と思えるかもしれない。
田尻 久子(たじり・ひさこ)
熊本市出身。会社員を経て、2001年喫茶と雑貨の店
orangeを開店。2008年橙書店を開店。
同店舗は、熊本文学隊の拠点も兼ねている。
文芸誌アルテリの責任編集者。
※下記の日程で,橙書店にて『God is Paper』刊行記念Exhibition開催中
2017年6月10日(土)~6月25日(日)
http://www.zakkacafe-orange.com/category/event/
2024/09/07(土) 〜 2024/10/13(日)
福岡アジア美術館
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