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美人画 表情の妙 伊東深水、池田蕉園、上村松園… 長崎歴史文化博物館【コラム】

2019/01/04 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

江戸時代末から昭和初期に人気を集めた「美人画」の魅力を紹介する特別企画展「新章ジャパンビューティ」が来年1月20日まで、長崎市の長崎歴史文化博物館で開かれている。代表的な画家の作品約130点が並ぶ。古今東西、女性美は芸術の大きなテーマ。本展が扱う近代日本画では、鑑賞者を意識した画家たちの工夫が興味深い。

深水「ほたる」
(昭和、個人蔵)

美しさは、何げない所作に秘められる。女優の故朝丘雪路さんの父でもある伊東深水(1898~1972)の「ほたる」は、若い娘が両手でホタルを捕らえた場面。うちわを口にくわえる姿が愛らしい。ホタルを逃がす瞬間なのか、手のひらから小さな光が飛び出す様子が目に浮かぶ。

蕉園「まつむし」
(明治、個人蔵)

竹久夢二に影響を与えた女性画家、池田蕉園(1886~1917)は「まつむし」で、柱にもたれかかるように抱きつく女性を描いた。暑さが残る夕刻。庭先を見つめる甘美な表情に引き込まれてしまう。

松園「花がたみ」
(大正4年、松伯美術館蔵)

展示の目玉の一つが、京都出身の第一人者、上村松園(1875~1949)の代表作「花がたみ」。世阿弥の作とされる謡曲を題材に、かつて皇子の寵愛(ちょうあい)を受けた狂女を表した。心を病んだ患者を写生し、この絵を描いたという。着物は乱れ、目はうつろ、引きつった口は半開き。異様なのに、なぜか目が離せない。

全国巡回展の長崎会場では、東京で活躍した長崎出身の女性画家、栗原玉葉(1883~1922)を特集している。39歳で早世したため、「今は知名度も作品価格も松園が上だが、トップレベルの女性画家だった」(担当の五味俊晶研究員)。大正期に「東の玉葉、西の松園」と評された2人の競演も見どころだ。

玉葉「朝妻桜」
(大正7年、個人蔵)


「朝妻桜」は、十字架を首からさげた吉原の遊女がモチーフ。禁教令に背いたため、満開の桜の下で処刑されたという。遊女の命と桜の花のはかなさが重なる。キリスト教徒の玉葉ならではの作品である。

玉葉「お夏の思い」
(大正11年、個人蔵)


玉葉も、恋に心を奪われた狂女に関心を持った。井原西鶴の作品を題材にした「お夏3部作」の一つ「お夏の思い」で、目がうつろな色白の女性を描いた。対照的に真っ赤な彼岸花が、人を狂わすほど強い思いを象徴しているようだ。
見かけの美しさだけでなく、画家の試行錯誤にも着目して鑑賞してほしい。(野村大輔)=12月20日 西日本新聞朝刊に掲載=

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