これまで「時間」や「歴史」をテーマに、時空を行き来する視点を作品に込めてきた現代美術家の杉本博司が四百数十年前に長崎から欧州に渡った4人の少年たちに向き合った。彼らが目にしたであろう風景や建築物を撮影。豊かな階調と細部まで精密に描写したモノクローム写真群が、鑑賞者に異文化を体感した少年たちの驚きと興奮を追体験させる。
16世紀後半、キリシタン大名の使節としてヨーロッパに派遣された「天正少年使節」の足跡をたどり、欧州のゆかりの地を撮影した杉本の作品などが長崎県美術館(長崎市)で展示されている。使節が1582年に出航し、8年後の1590年に帰還した長崎港を望む地に建つ会場での展覧会に、杉本も「宿命的な因縁を感じる」と語る。
新作シリーズに取り組む契機は2015年にさかのぼる。撮影で赴いたイタリアの劇場で、伊東マンショや千々石ミゲルら少年使節を歓迎する場面を描いた壁画と出合った。使節団の行程を調べてみると、少年たちが目にしていたであろう建造物の多くを、自分が撮影していたことに気付く。杉本は「呼ばれている」と縁を感じ、その後は使節の足跡を意図的に追う撮影行を繰り返すようになった。それは22歳で米国に渡った杉本自身と、少年使節を重ね合わせる旅でもあった。
展示は、長崎を出発した少年使節がスペインから地中海を渡り、イタリアに上陸したという構想で、ピサの斜塔や地中海の写真から始まる。照明を落とした展示室には、少年たちの目を驚かせたであろうローマのパンテオンやフィレンツェの大聖堂、ルネッサンスの名品「天国の扉」のレリーフなどの写真28点が浮かび上がる。
会場には杉本の作品のほか、ローマのジェズ教会が保管する3点の日本殉教図や南蛮屏風(びょうぶ)の名品も展示している。桃山~江戸時代と現代という二つの時間軸の作品が交錯することで、日本人が初めて知った西洋、西洋人が初めて知った日本という四百数十年前の双方の驚きが立体的に迫ってくる。(佐々木直樹)=1月14日 西日本新聞朝刊に掲載=