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それでも、人は生きていく 富野由悠季の世界<上>『ガンダム』の舞台設定 人類の歴史への冷徹な視点【学芸員コラム】

2019/08/16 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 

富野由悠季氏 撮影:鈴木心

 富野由悠季が手掛けたアニメは、そのほとんどが「ロボットアニメ」。すなわち、主人公の少年が、巨大な人型メカに乗り込み活躍する、というドラマが主軸だ。見かけとしてはそれは「男の子向け」。確かに、登場するロボットはかっこいい。しかし、その見かけに惑わされてロボットフェチになったり、逆に食わず嫌いとなったりするのはあまりにももったいない。
 今回は、富野作品でもっとも著名である『機動戦士ガンダム』(以下、『ガンダム』)から話を始めたい。これから『ガンダム』を見るという人、ロボットはどうも苦手だ、という人にまず注目してほしい点は、モビルスーツ(『ガンダム』における人型兵器の呼称)のデザインやその戦闘シーンではない。舞台設定だ。

スペースコロニーの外観。『機動戦士ガンダム(劇場版)』冒頭のシーンより
©創通・サンライズ


 本作の冒頭、人類が増えすぎた人口を宇宙の人工都市「スペースコロニー」に移民させてすでに半世紀が経過している状況、そのコロニーの一つが地球連邦政府に対して独立戦争を挑んで、総人口の半数が死んだことが端的に説明され、物語へと入る。
 『ガンダム』の世界を象徴するスペースコロニーは、米国の物理学者オニール博士が発案したもので、実際にNASAでも研究され、1970年代当時に懸念された人口爆発を解消する手段の一つとしての期待が高まっていた。
 幼少期から父親が開発に関与していた「与圧服」の写真に触発され、宇宙旅行への憧れを強くしていた富野は、スペースコロニーについても知識があった。『ガンダム』の企画の最初のメモに、オニール博士のコロニー案がほぼそのまま、物語のSF感、未来感を演出する舞台として描かれている。
 最新の宇宙技術案を作品の主舞台に取り入れた富野の慧眼(けいがん)に驚かされるが、富野の本領はこれだけではない。彼は、スペースコロニーという「知恵」が、別の問題を引き起こしている状況を想定しているのだ。すなわち「戦争」である。
 冒頭のナレーションを注意深く聞いてほしい。「宇宙に移民させるようになって…」。宇宙に移民するのではなく「させる」。誰かが、誰かを(おそらく強制的に)移民させている? 「宇宙移民」は、今よりももっと高度な科学技術がなければ実現不可能だが、そうした技術をもってしても、いやその技術のゆえに、生じた問題-地球側とコロニー側との間にある支配/被支配の問題の存在を強烈に印象付けている。
 人口爆発を解決する手段であったはずのものが、いつのまにか戦争の遠因となり、結果的に人口の半数を死に追いやってしまった(結果、目的が達成されてしまった)とは何とも皮肉な展開だ。しかし、こうした人類の「知恵」の無様(ぶざま)さを私たちは歴史の中に多数発見することができる。子供向けのエンターテインメントという外見とは裏腹に、富野のアニメ作品には、人類の歴史とその知恵に対する冷徹な視点があるのだ。
 福岡市美術館で現在開催中の富野の55年にわたるキャリアを回顧する展覧会を準備するために、筆者を含む企画チームは、富野に幾度かインタビューを行った。その中でたびたび出てきたキーワードがこの「知恵の在り様」だった。
 何かを解決するための「知恵」。それは様々(さまざま)な知識人(インテリ)たちがたくさん持っており、研究成果として披露される。しかし問題はその使い方や在り方だ-。インテリへの疑義が、富野の口をついて出てくることがあった。その話題は、身辺の政治社会状況から、宇宙開発にまで及んだ。その問題意識から見ていけば、富野アニメもまた新たな魅力を獲得する。「知恵」は何のためにあるのか? それは人類存続のためである。本連載では、「知恵の在り様」というテーマを足掛かりに、富野由悠季の世界に皆さんを誘いたい。
(やまぐち・ようぞう=福岡市美術館学芸係長)=8月6日西日本新聞朝刊に掲載=

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