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住友財団修復助成30年記念「文化財よ、永遠に」【コラム①】企業メセナと文化財修復事業

2019/10/16 LINE はてなブックマーク facebook Twitter
益城町指定文化財
千手観音菩薩立像
鎌倉時代(13~14世紀)
熊本・千光寺

いま九州国立博物館4階・文化交流展示室で行われている特集展示住友財団修復助成30年記念「文化財よ、永遠に」(9/10~11/4)は、文化財の修復を基本コンセプトにしたものだが、その開催の背景には文化財の分野ではこれまでは無かったような企業メセナ活動の取組みがある。文化財の保存活用に関心を抱く一人として、当展覧会を通じ、このことをより多くの人達に知ってほしいという強い思いにかられた。

もともと企業と博物館、美術館の関係は古くからある。古今東西のさまざまな文化財などを収集し、公開していく、このあり方は企業の社会に対する文化的貢献の一つと受け止められてきた。実際、大倉集古館(東京)などは、私立博物館の第一号として市民に親しまれてきた。去年、九博でもここのコレクションの一部を披歴し、多くの人々に新鮮な感動を与えたことは記憶に新しい。

しかし、これまで文化財の保存や修復に視点を定め、持続的・継続的に長期間にわたって活動してきた企業体はきわめて少なかったといってよかろう。この展覧会を主催した住友財団はそれに該当するもので、企業メセナとしても稀有な存在である。展覧会のサブタイトルにあるように、住友財団は文化財の修復助成を三十年の長きにわたって行ってきた。修復を終えた各種文化財はいまや1,000件を超すほどである。社寺等の文化財所蔵者はもちろんのこと、それぞれの地域社会にもアイデンティティーの高揚をもたらしてきた。これまでにも、いくつかの企業等による文化財修復の助成が無かったわけではないが、これほどまでに持続・継続した支援はあまり見ることができなかった。

住友財団は、住友グループ20社が基金を拠出し、人類の豊かな社会建設に向け役立つことを目的として、更に心の豊かさづくりを唱え1991年に設立された。そこでは基礎科学研究をはじめとした五部門の助成事業を設けているが、その内の2部門に「文化財維持・修復事業の助成」と「海外の文化財維持・修復事業の助成」を充て、併せて毎年約60件の助成支援を実施してきた。国内の文化財だけでも、金額にして約7千万円、現在国が対応している動産文化財の総経費は約11億円であるので、実はその凡そ10分の1の支援を続けていることになる。もともと愛媛の別子銅山に企業体の原点をもった住友の当主(十五代)は、古代中国文化で華々しい展開をみた殷周等の各種青銅器を収集、世界的なコレクションを築き、泉屋博古館(京都)で公開・活用、更に十数年前には分館(東京)を設立して幅広い文化活動を続けているほどに、かねてから文化財への関心は高かった。文化財の修復という、社会貢献の理念は、自らの歴史と決して無縁のことではなかったのである。

一般的に国庫による文化財修復助成は、国宝や重要文化財等に限定されている。また、各地方自治体指定のそれでは、多くが財政事情等から、修復への対応はきわめて乏しいのが実態である。それだけに、いまやこの修復助成事業に期待するところが大きく、日本の文化財保存・活用の礎ともなっているほどである。

長崎県指定有形文化財
混一疆理歴代国都地図
朝鮮時代(15~16世紀)
長崎・本光寺常盤歴史資料館

一方、文化財修復の適切な展開は、当然のことながら修理技術者の存在無くしては成り立たない。正確で精度の高い技術を駆使して行われる修理が求められるが、常にその水準を保ち続けるには、修復事業が安定した状況で存在することが欠かせない。それにより、文化財修理特有の繊細な技術は維持され、向上していくのである。住友財団の文化財修復助成事業から得られる恩恵の大きさを感じる。と同時に、こうした企業メセナ文化を市民社会全体でしっかりと支え、応援していくことの大切さ、「文化財よ、永遠に」はそんなことをも気付かせてくれる。(元九州国立博物館館長 三輪嘉六)

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