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修復に焦点… 「文化財よ、永遠に」展 九博 過去と未来 見つめる現場 技術の伝承も課題【コラム】

2019/10/23 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

美術館、博物館、寺社仏閣などで目にする文化財。その多くは修理を重ねながら現在の姿を保っている。九州国立博物館(福岡県太宰府市、九博)で開催中の「文化財よ、永遠に」は、普段気に留めることがない修復に焦点を当て、その課題についても考えさせる。

「寛永臼杵城下絵図」の修復作業現場


 「国予算もあるが足りない上、国指定文化財が基本。地方文化財の修復にはなかなか入っていけない」
 9月下旬、展示関連イベントで三輪嘉六・前九博館長はそう語った。定期的なメンテナンスが必要となる文化財は、特に地方において所有者、地方自治体の財政的問題から維持、修復の危機的状況が続く。そんな中、住友財団(東京)は1991年の設立時から国、地方、海外の文化財修復に取り組んできた。今回の企画展の約30点は、すべて財団の助成を受けている。
 「寛永臼杵城下絵図」は、近世初期の臼杵城下を描く。折れやしわのほか、後世の修理跡の劣化やずれが目立ち、九博内の文化財保存修復施設で2009~10年にかけて修理した。絵図、絵画は通常、絹や紙地に描かれ、その裏側に別の紙(裏打紙)をのり付けし、補強されている。修復の際は、裏打紙をすべて剝がし、汚れの除去や本紙の補修などを行う。
 国宝修理装潢(そうこう)師連盟の理事、藤井良昭さんは修復の基本を「足さない、引かない」と言う。彩色が剝げた部分では、元の絵、図が類推できても描き足さない。そして「将来再修理できるように」と未来も見据える。のりの寿命は50~100年で、寿命がくれば修理の必要が生じる。以前、化学合成のりがよく使われたが、連盟加盟の工房では「可逆性がない」と天然素材のみを使う。
 藤井さんは15年に修理工房「宰匠」を立ち上げた。九博内の施設で九州一円から集まる文化財を年間30~40件手掛ける。それでも「修復のペースより、劣化の方が早い」と言う。
     ◇--◇
 福岡県糸島市の山中にある「浦仏刻所」で、仏師の浦叡學(えいがく)さんは黙々と作業をしていた。企画展には、浦さんが仏刻所で修復した仏像2体が並んでいる。
 熊本県益城町の千光寺の「千手観音菩薩(ぼさつ)立像」は16年の熊本地震で倒壊した。救出された仏像には、地元の人たちによる修理跡があった。「脇手もさまざまな付けられ方をしていた」と浦さん。その跡の多くをあえて残した。「守ってきた人たちの情もある。信仰の問題もあるので難しい」。絵図とは違う事情も考慮する。

修復前の「後藤貴明像」


 佐賀県武雄市にある貴明寺の「後藤貴明像」はまた違ったケースだ。武雄領主だった戦国武将の肖像は、昭和40年代に肌が白く塗り替えられていた。同寺の土岐弘親住職は「違和感があった」と振り返る。浦さんの工房で彩色をはがすと元の表情が現れた。土岐住職は「迫力があり、これが本当の姿と感じた」。当初予定していた別の色での塗り直しはやめ、彩色を除去したままで仕上げた。

後世に施された彩色が除去された「後藤貴明像」

     ◇--◇
 今年施行された改正文化財保護法は観光振興などを念頭に文化財の活用を促す。別府大の篠﨑悠美子教授(彩色文化財)は「他の地域を訪れた時、そこの文化の根幹は何かを知ることは相互理解のためにも重要。お蔵に入れているだけでは意味がない」とし、方向性に理解を示す。ただ、装潢に使う和紙、その原料、道具の調達は困難になっている。高齢化で仏像など地域の文化財の守り手も減るばかりだ。活用どころか保存や維持の前提も揺らぐ。
 「技術の伝承も含めて修復。それを下支えする文化的な意識がわれわれに必要」と篠﨑教授は指摘する。守るべき文化にどれほど意識を向けているのか。文化財を次世代に残せるかどうかは現在を生きるわれわれの課題である。(小川祥平)=10月18日西日本新聞朝刊に掲載=

 

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