ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち
2019/10/01(火) 〜 2019/11/24(日)
09:30 〜 17:30
福岡市美術館
2019/10/26 |
ギュスターヴ・モローの「出現」。画面右から衛兵、聖ヨハネの首、サロメ、ヘロデ王、サロメの母ヘロデヤが描かれる。左の2人は背景に溶け込み見づらいが、画家の制作意図から考えると当然だ。
戯曲に名高い悪女サロメは、聖ヨハネを奸計(かんけい)で殺害に導き、首をわが物にしたとされる。しかし原典の新約聖書によると、首謀者は母ヘロデヤ、指示したのはヘロデ王だ。2千年前のパレスチナ北部領主の妃(きさき)ヘロデヤは、ヘロデ王との不義の再婚をいさめられ、聖ヨハネに殺意を抱いた。
王を祝う宴で舞を披露したサロメは、褒美に何でも望む物を与えると王から告げられる。聖書の記述は次の通り。
「少女が座を外して、母親に『何を願いましょうか』と言うと、母親は『洗礼者ヨハネの首を』と言った。早速、少女は大急ぎで王のところに行き、『今すぐに洗礼者ヨハネの首を盆に載せて、いただきとうございます』と願った」(マルコによる福音書6:24-25)。王の命令でヨハネを斬首した衛兵は聖ヨハネの首を「盆に載せて持って来て少女に渡し、少女はそれを母親に渡した」(同6:28)。
聖書のサロメは伝令役を果たしただけだ。それが19世紀末の戯曲で、唐突に悪女とされた。この飛躍の橋渡しをしたのが、絵画である。
6世紀ごろに書写されたシノペ福音書挿絵にあるサロメの絵は素朴な説明図にすぎない。しかし時代が下り絵画に迫真的描写力が備わると、少女と首だけの絵がさかんに描かれた。少女は恐ろしい首から目をそらすように描かれてはいたが、聖書にある事件の顛末(てんまつ)を単純化し、あらざる妄想へと人々をかき立てた。
19世紀、モローは首を直視するサロメを描き、少女は殺害の首謀者となった。娘が主体的に首と向き合う絵の下では、母親と王には祝宴の場面を示す役目しか残されない。画家が2人を背景に沈めたのは自然の成り行きだろう。
この構図が、英国の作家オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」など多くの芸術の源泉となったことは知られる通り。この絵は悪女サロメを世に「出現」させた名画だ。日本に来たのは今回で4度目という。 (大串誠寿)=10月19日西日本新聞朝刊に掲載=
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