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美しさと残酷が共存する中に垣間見る、女性たちへの崇敬「ギュスターヴ・モロー展」【レポート】

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木下貴子
2019/10/18
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パリにあるギュスターヴ・モロー美術館は、1903年に開館した世界初の国立の個人美術館です。モローがかつて住んでいた4階建ての邸宅兼アトリエを改装したこの美術館では、15000点以上ものモローの作品が展示されているといいます。そのギュスターヴ・モロー美術館の所蔵品約100点を紹介する展覧会『ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち』。先に開催された東京、大阪で大好評を博し話題になっていた同展が、ついに福岡でも開幕です(福岡市美術館にて11月24日(日)まで)。さっそく《アルトネ》取材班も展覧会を鑑賞!その様子をお届けします。

福岡市美術館2階の特別展示室にて開催


ギュスターヴ・モロー(1826-1898)は、フランス象徴主義を代表する画家です。モローが活動した19世紀後半は写実主義や印象主義(印象派)が主流であり、また世の中が現実的・物質的に傾いているなかで、モローは目には見えない内面世界を描くことで真実を見出そうと、神話や聖書の世界のような幻想的な絵画を描き続けました。

独自路線を貫き、「パリの真ん中に隠れ住む神秘家」とも呼ばれたモローとは、いったいどんな人物だったのでしょう? 展覧会の幕開けとなるⅠ章「モローが愛した女たち」では、モローが実生活において愛した二人の女性(を描いた作品)を通して、モローの素顔の一端に迫っています。

Ⅰ章「モローが愛した女たち」展示風景

 

《24歳の自画像》1850年
素描による自画像を多く残したモローが、唯一油彩で描いたという自画像も展示されています

 

ここで展示される母ポーリーヌ、30年近くもの間惜しみない愛情を注いだ女性アレクサンドリーヌ・デュルーを描いたいくつもの素描からは、モローが彼女たちに注いだ温かいまなざしを感じます。

左から恋人《アレクサンドリーヌ・デュルー》母《ポーリーヌ・モロー》


母に次いでアレクサンドリーヌを病気で失い、哀しみに打ちひしがれたとされるモローが後に描いた《パルクと死の天使》も展示されています。解説によると「逃れようのない哀しみと喪失感といった負の感情を創作のエネルギーとして転換していくモローの、悲壮なまでの努力の結実」とされるこの作品を前に、佇むことしばし。時を経てなお、モローの悼みが伝わってくるようです。

《パルクと死の天使》1890年頃

 

《パルクと死の天使》1890年頃(部分)


モローの代表作であり、本展のポスターやチラシのメインビジュアルになっている《出現》を見る限りでは、残酷ともいえるほどの生首の生々しさ、崇高な世界観が印象的だったのですが、一転。Ⅰ章では、母と恋人、2人の女性を愛し慈しんだ男性像が浮かびました。

 

モローが生涯を通して描き続けた、男を誘惑し破滅に導く「ファム・ファタル(運命の女)」をテーマにした本展。早くもラスボスとも言える「サロメ」の登場です。

Ⅱ章「《出現》とサロメ」では、モローが執拗なまでの情熱をもって取り組んだ、新約聖書に源泉をもつユダヤの女王「サロメ」が描かれた作品が並んでいます。ヘロデ王の前で踊るサロメのシーンから、洗礼者聖ヨハネの斬首、聖ヨハネの首をもつサロメ、そして《出現》のシーンに至るまで、素描・水彩・油彩という異なる技法、習作・未完成・完成作など、様々な「サロメ」を目にすることができます。

Ⅱ章「《出現》とサロメ」展示風景

 

《洗礼者聖ヨハネの斬首》1870年頃
《サロメ》1875年頃

空間と人物構成に重きを置いたモローの、このような習作も展示されていました。

《サロメ》


そして、本展の真打ちである《出現》です。広い空間を贅に使い、赤く装飾した壁に展示するという特別な計らい。重厚さと威厳が増しています。

《出現》1876年頃 展示風景

 

印刷物では分からなかったのですが、物々しい人物(頸)描写もさることながら画上に施された線画がそれは見事なものです。1つの作品に対しすごい情報量があり、長時間見続けても見飽きることがありません。

ギュスターヴ・モロー《出現》1876年頃
ギュスターヴ・モロー美術館蔵
Photo © RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF 



なお、この《出現》の見どころについては、後日、「喜多崎 親氏 講演会」レポート内にてお伝えします。お楽しみに。

ほかにも……サロメの素描、習作、サロメの横顔など、実にバリエーション豊富です。

サロメを題材にした素描、習作の展示風景

 

《サロメ》

 

Ⅲ章「宿命の女たち」では、神話にでてくる女神や魔物、聖書にでてくる女傑、歴史上の人物……男を誘惑し破滅に導く女に限らず多元的で重層的に描かれた、数々のファム・ファタルたちが紹介されています。

Ⅲ章「宿命の女たち」展示風景

 

ホメロスによる叙事詩『オデュッセイア』に登場する海の魔物セイレーン。美しい歌声で船乗りを引きよせ、死へ至らしめると言い伝えられています。いわゆる人魚伝説ですね。

《セイレーン》


冷たい無の表情のなかに現れる美しさ。そこにより恐怖を感じます。

《セイレーン》(部分)

アダムとともに神が創造したエヴァや、クレオパトラなど、誰もが知るファム・ファタルらの姿も見られます。

《エヴァ》1880-85年頃

 

《クレオパトラ》

 

モローはなにも背徳的な美女たちだけを描いてきたわけではありませんでした。最後のⅣ章「《一角獣》と純潔の乙女」では、モローの代表作の一つとされる《一角獣》をはじめ、汚れなき乙女たちが描かれた作品が紹介されていました。

《一角獣》1885年頃
純潔の乙女のみが捕獲できると伝えられる幻獣・一角獣が描かれていることで、この作品は女性の純潔や清らかさをテーマにもつであろうといわれています

およそ250年前の時代に、どれほどの情熱をもってこのファム・ファタル、あるいは汚れなき乙女たちについて研究を重ねたのでしょう。卓越した描写技術、美意識の結晶ともいえる高い表現力に加え、ストーリー性をも併せもつモローの世界観に驚かされます。不謹慎な例えかもしれませんが、モローはかなりのオタク気質であり、「サロメ」推しだったはず……と邪推するのはほどほどにして、遡ってⅠ章で紹介されていた最愛の2人の女性たちへと思考をもどします。モローが深い愛情を注いだ彼女たちの存在があったからこそ、モローは「女性」という存在そのものに敬意を払っていたのではないでしょうか。威圧さはなく、むしろ崇められているように描かれた女性像をいくつも見ていくうちに、同じ女性としてなんだか誇らしさと心地よさを感じたのでした。

※作品はすべてギュスターヴ・モロー美術館蔵

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