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人気漫画家と長崎の奇縁 「ジョジョの奇妙な冒険」 【コラム】

2020/03/20 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

※本展は3/24まで高校生以下の入館が不可となっています。

 「ジョジョの奇妙な冒険」で世界的な人気を集める漫画家の荒木飛呂彦さん(59)は、駆け出しのころから手本とする人がいる。大正~昭和中期、冒険心とロマンあふれる挿絵が少年誌で人気を博した椛島勝一(1888~1965)=長崎県出身=だ。椛島でつながれた縁もあり今年、長崎県美術館で「ジョジョ」原画展が実現した。古(いにしえ)の美術にも目を向け、肉体や色彩の美を追求しながら、新たな漫画世界を切り開いてきた荒木さんの情熱がうかがえる。

原画展の開会式であいさつする荒木飛呂彦さん=1月、長崎県美術館

 「ジョジョ」は1987年、週刊少年ジャンプ(集英社)に連載開始。現在は同社の別の月刊漫画誌でシリーズ第8部が継続中だ。「ジョースター家」の血を引く一族が、さまざまな因縁に導かれて戦いを繰り広げる。時代を超え、大陸を股に掛ける大河的な展開にサスペンスやホラーの要素も折り込み、型破りな設定、大胆さと繊細さを併せ持つ描写もあいまって人気を博す。シリーズ累計発行部数は1億部を超える。

 荒木さんがペン画を絶賛する椛島は、戦中の軍国主義を反映した小説の挿絵などで活躍した。荒木さんはこう評する。

 「世界の果てまで行くんだぞ、という空気がかっこいい」

 登場人物が旅も経ながら成長していく「ジョジョ」には、椛島の影響もうかがえる。特に帆船の絵が好きで、デビューしたての頃、精緻な波の描写や陰影の付け方を参考にし、画集を見て模写したこともある。

高さ2メートルの大型原画は今回の展覧会のために制作した

 「こういう絵が好きでジョジョを描いているんですよね」。カラーではない漫画誌でも「ジョジョ」の作画が圧倒的な存在感を放つのは、椛島作品の研究成果と言えるかもしれない。アシスタントにも、参考にするよう勧めることがあるほどだ。
長崎での原画展が実現するまでには、いくつかの偶然が重なった。まずは荒木さんの最初の担当者が、椛島勝一の孫である椛島良介氏だったことである。

 さらにもう一つは良介氏が、祖父の作品寄贈を相談しようと訪れた長崎県美術館に、「ジョジョ」の大ファンである学芸員がいたことだ。館は椛島家などから千点超に上る原画、資料の寄贈、寄託を受けた。椛島勝一、荒木さん、良介氏、そして長崎県美。運命に導かれるように、原画展の長崎巡回が決まった。

椛島勝一《船》1949年 講談社蔵/長崎県美術館寄託

 椛島を含め、荒木さんは過去の美術から積極的に吸収してきた。例えば、読者を魅了する要素の一つであるキャラクターの独特なポージング。誇張し、ときに現実離れした体のひねり。女神が体をよじりながら木に姿を変えていく、イタリアバロック彫刻の巨匠ベルニーニの「アポロンとダフネ」をはじめ、ローマで目にした彫刻が発想の源という。原画展のために制作したキービジュアルは、尾形光琳の「燕子花図」の構図や色使いを応用した。

 「漫画や絵画を描くとき、突然何か思い浮かぶものではない。必ず何かの影響を受ける」と言う荒木さんの探究心は衰えない。不思議な縁で結ばれた長崎の地で、新たな境地をのぞかせている。(諏訪部真)=3月3日付西日本新聞朝刊に掲載=

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