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2020/03/19 |
福岡県大牟田市の國盛麻衣佳さん(34)は、かつて石炭産業で栄えた故郷の記憶を作品に託してきた芸術家であると同時に、全国の旧産炭地で生まれた芸術潮流を丹念に追う研究者でもある。自身のルーツに目を向け、表現と研究に明け暮れて12年。今年1月、その歩みを一冊の本にまとめて刊行した。
九州大大学院芸術工学府に提出した2017年の博士論文を改稿した著書「炭鉱と美術 旧産炭地における美術活動の変遷」は、北海道、福島、福岡の筑豊、三池をフィールドに、美術、文学サークルの発生や、炭鉱に触発された芸術家、近年各地でトレンドとなっているアートプロジェクトについて幅広くまとめた。
成果の一つは、産炭地間の比較を通じて各地の特徴を明らかにしたことだろう。筑豊では山本作兵衛や上野英信に代表されるように、坑内労働の経験者による表現や記録が多く、積極的に共有されていた。三池では、事務職員として働き独学で絵を学んだ江上茂雄などの存在に光を当てつつ、炭鉱をテーマにした社会性のある美術活動は少なかったと指摘する。
中小炭鉱が多く閉山が相次いだ筑豊では、危機感が創作の動機となっていた。一方、単一企業で長く操業した三池ではそうした感覚は薄かった―。地域差の背景をそう読み解いた。三池での芸術文化活動については、その全体像を把握する研究例がなく、独立した章を設けた。索引まで含めて320ページ。巻末には産炭地で活躍した美術家の一覧を付けた。
故郷への思いは今でこそ自らを突き動かす原動力だが、かつては嫌いでしょうがなかった。
1997年、三井三池炭鉱が閉山した。食卓の椅子に置かれた新聞の1面記事は閉山を伝えていた。中学、高校と多感な時期へと向かう小学6年の頃だった。
「流行に触れたいのに、逆に寂しくなっていく街が嫌いで」
東京の女子美術大に進学。4年の時に、曽祖父母が三池炭鉱で働いていたことを親戚に聞く。それをきっかけに、歴史を踏まえた表現に踏み出した。
2007年、石炭由来のオリジナル顔料「コールペイント」を使い、身近な人の似顔絵を描くワークショップを大牟田で開いた。石炭の体感を通して地域への愛着を育もうとする試み。だが、周囲からは「炭鉱はそんな軽いものじゃない」と否定的な声もあった。思わぬ反響だった。「『負の遺産』のイメージが根強く、歴史を学ばなければ続けられない」と、本格的に研究へとかじを切る。
東京芸術大院で修士号。2010年、九大院の博士課程へ進んだ。アーティストとしては、12年と13年に、漆喰(しっくい)のレリーフに石炭灰などで着彩した作品が公募展で受賞。コールペイントのワークショップや絵画制作も並行して続けた。博士論文の完成には結局7年間を要した。
一度は背を向けた故郷。向き合おうとして壁にぶつかり、乗り越えてこその今がある。地域の文脈を丁寧に読み解き、行動に移してきたとの自負がある。短期間地域に滞在して制作する昨今はやりの「アーティスト・イン・レジデンス」のような取り組みには厳しい視線を注ぐ。
「表面的に文化資源をすくい上げることで、本当に地域はエンパワーメントされるのか」
そのため、著書では旧産炭地で展開されたアートプロジェクトの検証にも多くのページを割いた。地域を拠点に、ときに住民も巻き込んで作品を制作し、その過程も含めて都市再生や記憶継承を期待されるアートプロジェクト。成功例がある半面、説明不足なためにアーティストと地域の間に摩擦が生じたケースもあると言及した。
「今回検証したことが、これから炭鉱と美術をテーマにする人の道しるべになったらいい」。当面は、研究よりも美術活動に軸足を移したいという。 (諏訪部真)=3月2日付西日本新聞朝刊に掲載=
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