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冬物のコートを買うようにアートを買う。そのぐらい芸術って身近なこと。/画家・田代敏朗氏【インタビュー】

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宮本喜代美
2017/10/10
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2017年9月26日にオープンした話題のスポット「六本松 蔦屋書店」。栄えあるオープニングエキシビションに選ばれたのは、今夏、初の海外巡回展をNYブルックリンで行い、大いに注目を集めた画家・田代敏朗氏だ。「六本松 蔦屋書店」で発表されている最新作群「THE VERY END OF DAWN」の見どころや絵を描くということ、絵を所有して楽しむことなどを語ってもらった。

田代敏朗氏。六本松 蔦屋書店にて。


ーー NYから戻って来てわずか2ヶ月半で新作を発表。時間が足りない、という焦りはなかったんでしょうか?

田代:おかげさまでずっと展示が続いているから、納期で動くとか、締め切りに追われる感じは慣れっこで(笑)。でもNYから戻って来て2ヶ月ほど時間が空いたんですよ、3年ぶりぐらいに。じつは今回の作品は、六本松 蔦屋書店で展示するという前提で制作したものではなく、その2ヶ月で〝自分が作りたいものを作ろう〟って決めて描いたものなんです。求められているものとかじゃなくて、自分が思うままに、自由に。時間をかけて、すごくこだわって描いたから自信作ですし、完成した作品をエージェントに見せたら高く評価してくれて、オープニングエキシビションの話も決まって。自信ある作品を多くの方に見ていただける機会を得て、とてもうれしく思っています。

ーー〝作りたいものを作ろう〟と考えるようになったのは、NYでの展示以降ですか?

田代:そうですね。NYに行って、ものづくりへのモチベーションがすごく上がったんです。概念も変わったし。もともと海外進出する展望や願望はなかったんですが、呼んでいただいたので行って…そしたらオープンな感じやボーダレスな発想にやられちゃって。NYでライブペイントした時、15時からレセプション、16時30分にライブペイント開始っていう流れだったんですが、僕が描き始めるのをみんなずっと待ってくれているんですよ。心配になって「スタートまであと1時間ぐらいあるよ…大丈夫?」って聞いたら、「いや、今日はお前のペイントショーを見に来たんだ。楽しみにしているから、お前のペースでやってよ」って言われて。日本でライブペイントする時は「お客さんがいっぱいになったし、時間を前倒しして描き始めようかな」とか「終わり時間、大丈夫かな?」とか、絵を描く上ではどうでもいいこと、ある側面では大事なことなんだけど、そういうのも気にして描いてたんだな、ってその瞬間に気づいて。僕が今やるべきことはものづくりだ!って思ったら、ライブペイントにものすごく集中できて、終わった途端に拍手喝采。みんなが「ワ〜!」って来てくれて「すごいよかったよ!」ってハグしてくれたり…。久しぶりに感激しました。お客さんの反応もだけど、人目を気にせず、ずーっと描けたことに。

もともとマメな人間なので、いろんなことをちゃんとしようとするんです。でも、NYでそれがバーンと一気に吹っ飛んだし、エージェントやマネージメントなど、支えてくれる人も周りにいるわけだから、〝ちゃんとしよう〟はチームに任せて、今は、ものづくりに集中することを楽しんでいる感じです。
 

NYでライブペイントする田代氏
NYでの展示風景


ーー今回の個展「THE VERY END OF DAWN」は、ものづくりに集中する中で生まれた作品なんですね。

田代:はい。僕はけっこう多作で、作るのも早いんですよ。感覚で作るタイプだから、インスピレーションが降りて来た瞬間にパッて描くタイプだったんです。でも今回は、時間もたっぷりあったし、アトリエを掃除して、朝ごはんを食べて、というような規則正しい暮らしの中で、今日はこの色をキレイに乗せよう、とか、丁寧に拭き上げよう、とか、職人みたいに計画立てて、ひとつひとつの工程を集中して進めたんです。NYで〝僕がやらなきゃいけないのはものづくりだ〟って気づいたからこそ改めて、色の世界や匠の仕事に回帰したくなって。とにかく丁寧に作りました。

ーー NYでの体験でますますインスピレーションに走るかと思いきや、職人路線へ!

田代:そうそう。だから今回の作品の世界観も、最初から計画して構築していました。物事の二面性を1つの作品の中に描くこと、そして、ドリッピングやボーダーのストロークなど表現方法として飽和しているものや見慣れているものを、僕なりの均整でレイアウトすることによって、新しい価値を生み出そうと。

ーー タイトルもステキですよね。「THE VERY END OF DAWN」。

田代:「THE VERY END」=何かが終わるほんの少し前、みたいな刹那的で耽美な感じがすごく好きで。でもそれって、ただ単純に終わる、っていうことじゃなくて、次が始まる一呼吸前。入れ替わる瞬間っていうイメージなんですよね。その一瞬を、例えば、動脈と静脈、躍動と静止みたいな二面性と捉えて、その転換点を作品の中に収めたかったからこのタイトルを付けました。とはいえ、「このタイトルだけど、私にはこういう風に見えるわ」っていう見方をしてもらっても全然いいんです。むしろうれしい。僕は、芸術作品には隙間がないと意味がない、って思っているから。

ーー 隙間…?

田代:見た人が、自由に想像したり遊べる隙間。作家の主張やエゴイズムがきちんと昇華されている作品はそういう隙間、絵の中に入って遊べる余地のようなものがあると思うんです。分かる人にだけ分かればいい、っていうエゴの塊みたいな作品は絶対に作りたくないし、見る人ごとに違う解釈が生まれる、というのは、作品に入り込める余地や隙間があるということ。僕にとって、それは好ましいことです。

円形作品は30点展示。ほか立体など計32点が見られる。


ーー 展示作品は、価格が手頃なのもうれしいですね。

田代:そう、ほとんどの作品は3万円台。この価格設定は、もっと気軽にアートを所有してほしいからなんです。ちょっと贅沢して高いお寿司を食べに行ったり、冬物のコートを買うように、普通に絵を買う社会になってほしくて。

ーー 「自分へのご褒美」や「ちょっと奮発して!」という時にアートを買う、という選択肢を持っている人は、まだまだ少ない気がします。展示作品が購入できる、というのをご存知ない方も…。

田代:そうなんですよね。でも今回の作品は特に、すごい自信作だから連れて帰ってほしいです。僕の名前を知らなくても、この作品を美しいと思ったら、怖がらずに買ってみてほしい。毎日愛でても絶対飽きないから。そのぐらい計算し尽くして作ってるから、どうぞどうぞって。

ーー 芸術作品を所有する愉しみってありますよね。

田代:僕もだいたい季節ごとに、好きな作家さんの作品を買いますね。展示を見に行った時は「どれに呼ばれているかな」って、自分の思いをダイブできるものを探しながら選んで買って。例えば去年は写真家の福田秀世さんが撮った、イタリアの海と空が写った作品を購入し、家に飾っていました。僕は今、八ヶ岳に住んでいて、海が近くにないから海を感じたくて。もう外しましたけど。

ーー なぜ!?

田代:夏が終わったから・笑 そんな感覚なんですよ。それに、作品に埃がかぶるような状態があんまり好きじゃないんで、定期的に飾ったりしまったり。ジャンルを問わず買って、勉強させていただいています。もちろん、好きで買う、というのがいちばんの理由ですが、自分の作品が人の手元に渡った後、どうやって生きているのかということを自分の中で仮定できるから、アートと過ごす暮らしを実践している、というのもあって。今は、毛糸の作家さんの作品を飾っているのと、陶芸家の作品がお気に入り。陶板の刺身皿なんですが、結構値が張るのでお刺身を置けなくて・笑、それを愛でながらお酒を呑んだりしています。

ーー 愉しみ方に決まりはない、と・笑

田代:芸術作品の感じ方は無限大、何を思ったっていい。それに、例えば冬物のコートならその時期しか着られないけど、アートの耐久時間って自分で決められるんですよね。僕は、アートは宇宙だと思っていて、今回の僕の円形作品なら、丸い窓の宇宙、別の世界にポーンと行ける入口。いつまでアートの宇宙の中にいるかは、見る人が決めればいい。とても自由なもの。連れて帰ったら絶対新しいストーリーが生まれるし、こんな風に愉しめるもの、ほかになくない!? って思うから、もっとアートを身近に置いてほしいと思っているんです。

ハンターから購入し、しばらく田代氏宅に飾られていたという鹿の頭は、ペイントが施され作品として生まれ変わった。
高い人気を誇る文具メーカーHIGHTIDEと六本松 蔦屋書店がコラボした田代氏のオリジナルジェネラルパーパスケース2種と、田代氏のアートブック「NEW LANGUAGE, NEW COMMUNICATION.」。どちらも六本松 蔦屋書店にて発売中。

 

 

田代敏朗(タシロ・トシアキ)
画家。1980年佐賀県生まれ。佐賀県展洋画の部において史上最年少の16歳で主席(県知事賞、山口亮一賞)受賞を皮切りに、数々のアワードを獲得。2014年秋、ひよ子本舗吉野堂100周年新ブランドでのコラボレーションに抜擢、注目を集める。東京、大阪、福岡などで多くの個展を開くほか、2017年7月にはブルックリンにてレジデンス/展示を開催。

 

<この記事に関連するイベント>
田代敏朗個展「THE VERY END OF DAWN」
2017/9/26(火)〜2017/10/19(木)
@六本松 蔦屋書店 アートスペース

<関連イベント>
田代敏朗個展「THE VERY END OF DAWN」レセプションパーティ

2017/10/14(土)18:00〜20:00
@六本松 蔦屋書店 アートスペース
入場無料

■トークセッション&レクチャー
「雑誌カルチャーの未来とポップアートの"夜明け"」
田代敏朗 (画家)
スペシャルゲスト:石渡健文
(BRUTUS元編集長/POPEYE前発行人/マガジンハウス取締役 編集総局長)
モデレーター:鶴田 正人 (MILIA 代表/Wooly magazine 発行人)

■LIVE
sayonarablue 他 出演予定

【田代敏朗氏 在廊予定日】
10/14(土)13:00〜20:00 (18:00〜20:00 レセプション)
10/15(日)13:00〜19:00
10/16(月)13:00〜19:00

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